売掛金について、決算書に100万円計上されていても、100万円を回収できるとは限りません。
取引先の経営状態が悪化していたり、倒産手続きが始まっていたりすれば、帳簿に記載された金額と実際に回収できる金額が異なることもあります。

回収が難しい売掛金を、そのまま資産として残しておくと、貸借対照表には実態より多くの資産が計上されます。
そのため、決算では売掛金の残高を合わせるだけでなく、取引先から実際にいくら回収できるのかまで確認する必要があります。

ただし、支払期日を過ぎたという理由だけで、売掛金をすぐに貸倒損失へ振り替えるわけではありません。
中小会計要領では、貸倒損失、貸倒引当金について下記のとおり規定されています。

4. 貸倒損失、貸倒引当金

(1) 倒産手続き等により債権が法的に消滅したときは、その金額を貸倒損失として計上する。

(2) 債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能な債権については、その回収不能額を貸倒損失とし 
  て計上する。

(3) 債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については、その回収不能見
  込額を貸倒引当金として計上する。

引用元:日本税理士連合会|「中小企業の会計に関する基本要領」

今回は、中小会計要領の各論のうち、貸倒損失貸倒引当金について確認していきます。

中小会計要領については、下記の関連記事をご覧ください。

この記事の要点
  • 回収できないことが明らかな債権は、貸倒損失として処理する
  • 回収不能のおそれがある債権には、貸倒引当金を計上する
  • 判断するときは、取引先の資産状況や支払能力を確認する
  • 売掛金は、帳簿上の残高だけでなく、回収できる金額まで見る
  • 会計上の費用と法人税法上の損金は、分けて確認する

貸倒損失と貸倒引当金は債権の状態で使い分ける

売掛金の回収が難しくなったとき、最初に確認したいのは、すでに回収不能なのか、回収不能になるおそれがある段階なのかという点です。

回収できないことが明らかな場合は、回収不能額を売掛金などから減らし、貸倒損失として費用に計上します。

一方、取引先の支払能力に不安はあるものの、まだ回収できる可能性が残っている場合は、売掛金を直接減らしません。
将来回収できないと見込まれる金額を、貸倒引当金として計上します。

貸倒損失と貸倒引当金の違い
  • 回収不能が明らかな場合
    回収できない金額を売掛金などから減らし、貸倒損失を計上します。
  • 回収不能のおそれがある場合
    売掛金などは帳簿に残し、回収不能見込額を貸倒引当金として計上します。

売掛金100万円のうち20万円の回収に不安があるだけなら、売掛金100万円を帳簿から消すことはできません。
20万円を貸倒引当金として見積もり、売掛金から差し引く形で決算書に反映します。

売掛金100万円から貸倒引当金20万円を差し引けば、貸借対照表に反映される純額は80万円です。
ただし、80万円は回収が確定したわけではなく、決算日時点の見積もりを、決算書に反映した金額です。

貸倒損失は回収できない金額を債権から減らす処理

貸倒損失を計上する場面は、大きく2つに分けられます。

貸倒損失を計上する場面
  • 倒産手続きなどによって債権が法的に消滅した場合
  • 債権は残っているものの、実質的に回収できない場合

どちらも回収不能額を貸倒損失として処理しますが、その判断に至る経緯は異なります。

法的に消滅した債権を貸倒損失にする

取引先の倒産手続きなどによって、売掛金の全部または一部が法的に消滅した場合は、消滅した金額を売掛金から減らし、貸倒損失を計上します。

たとえば、売掛金100万円のうち、倒産手続きによって70万円の切捨てが決まり、残り30万円の弁済を受けることになった場合を考えてみましょう。

法的に消滅した70万円は、貸倒損失として費用に計上します。
今後弁済を受ける30万円は、引き続き売掛金として帳簿に残します。

大切なのは、取引先が倒産したという情報だけで処理を決めないことです。

倒産手続きが始まっていても、債権の切捨額や弁済額がまだ決まっていない場合があります。
手続きの進行状況を確認し、どの手続きによって、いくらの債権が消滅したのかを明らかにしたうえで処理をします。

確認する資料としては、次のようなものが考えられます。

  • 再生計画や更生計画に関する書類
  • 債権の切捨額が記載された通知書
  • 債務免除の内容がわかる書面

債務免除を行った場合も、会計上は消滅した債権について貸倒損失を計上します。
ただし、法人税の計算で損金として認められるかどうかは、免除に至った事情や取引先の支払能力によって判断が変わります。

実質的に回収できない債権も貸倒損失にする

法的な手続きを経ていなくても、取引先の資産状況や支払能力から見て、回収できないことが明らかなケースがあります。

取引先が相当期間にわたって債務超過となっており、弁済できないことが明らかな場合などは、回収不能額を貸倒損失として処理します。

ただし、支払期日を過ぎただけでは、回収不能とは判断できません。

請求書が経理部門に届いていなかった、振込手続きが遅れている、一時的に資金が不足しているなど、入金の遅れにはさまざまな理由があります。
支払いが遅れている事実と、今後も回収できない状態は、分けて考えなければなりません。

回収の可能性を検討するときは、次の点などを確認します。

  • 資産を処分して支払える状況にあるか
  • 今後の事業収入から弁済できるか
  • 債務超過の状態がどの程度続いているか
  • 担保や保証から回収できる金額があるか

取引先と連絡が取れない場合も、連絡が取れないという事実だけで結論を出すのではなく、督促の経過や取引先の現状を可能な範囲で確認する必要があります。

貸倒引当金は将来の回収不能額を見積もる処理

取引先の経営状態が悪化していても、決算日時点では回収不能と断定できないことがあります。
分割での入金が続いている場合や、今後の資金繰りによっては支払いが再開される場合もあるからです。

回収の可能性が残っている段階では、売掛金を帳簿から直接減らしません。
将来回収できないと見込まれる金額を貸倒引当金として計上し、売掛金から差し引く形で決算書に反映します。

貸倒引当金を設定するときは、見積もった金額と同額の貸倒引当金繰入額を、当期の費用として計上します。

貸倒引当金を計上しても、取引先への請求権がなくなるわけではありません。
売掛金は帳簿に残るため、取引先から入金があれば、通常どおり売掛金を減らします。

決算ごとに回収の見込みを見直す

取引先の状況は、前期と当期で同じとは限りません。

前期に回収が難しいと考えて貸倒引当金を計上していても、その後に入金が進み、回収の見込みが高まる場合があります。
反対に、取引先の経営状態がさらに悪化し、前期より多くの引当てが必要になる場合もあります。

貸倒引当金は、一度計上した金額をそのまま残し続けるものではありません。
決算時の情報をもとに、回収不能見込額を改めて検討します。

前期の処理をそのまま引き継ぐのではなく、次の状況などを確認して金額を見直します。

  • 決算日までに入金された金額
  • 今後の入金予定
  • 取引先の経営状態の変化
  • 担保や保証から回収できる見込み

見積もりに使った情報や計算の過程を残しておけば、翌期の決算でも状況の変化を確認しやすくなります。

貸倒引当金は一定の方法で見積もる

貸倒引当金は、決算日時点で見込まれる回収不能額を合理的に見積もって計上します。

中小企業の実務では、債権全体に一定の率をかけて計算する方法が考えられます。
法人税法上の法定繰入率を使う方法や、過去の貸倒実績率を使う方法が示されています。

法定繰入率を使う方法

法人税法上、一定の中小法人等には対象となる債権の期末残高に法定繰入率をかけて、貸倒引当金の繰入限度額を計算する方法が設けられています。

計算の基本的な形は、次のとおりです。

対象となる債権の期末残高 × 法定繰入率

法定繰入率を使うと、債権ごとに回収不能額を見積もるより、計算を簡便に行えます。

ただし、貸借対照表に載っている債権のすべてが対象になるわけではなく、法定繰入率を利用できる法人も限られています。
実際に計算するときは、適用対象となる法人か、どの債権を計算に含めるかを確認します。

過去の貸倒実績率を使う方法

過去に発生した貸倒れの実績から貸倒実績率を求め、期末の債権残高にかけて計算する方法もあります。

対象となる債権の期末残高 × 過去の貸倒実績率

過去の実績を使えば、その会社で実際に発生した貸倒れを見積もりに反映できます。

ただし、過去の数字を機械的に当てはめればよいとは限りません。
主要な取引先が変わった場合や、取引条件が大きく変わった場合には、過去の実績だけでは現在の回収リスクを十分に表せないことがあります。

決算日時点の取引状況も見ながら、使用する方法が実態に合っているかを検討します。

なお、会計上の見積額が、そのまま法人税の計算で認められるとは限りません。

会計では、決算日時点の回収不能見込額を貸倒引当金として計上します。
法人税の計算では、貸倒引当金を計上できる法人の範囲、対象となる債権、損金として認められる限度額から確認します。
したがって、会計上の貸倒引当金≠税法上の貸倒引当金となり、法人税の計算で調整が必要なケースがあります。

売掛金は残高だけでなく回収できる金額まで確認する

売掛金について「帳簿の残高と請求書の合計が合っているから問題ない」と考えてしまうことがあります。
しかし、数字が一致していても、長期間入金されていない売掛金が含まれていれば、資産の中身は健全とはいえません。

たとえば、前期も当期も売掛金が1,000万円だったとします。

合計額だけを見れば、大きな変化はありません。
しかし、前期の1,000万円が支払期日前の売掛金で、当期の1,000万円には半年以上入金されていない債権が含まれているなら、同じ金額でも回収の見込みは異なります。

売掛金があっても、入金されるまでは会社の預金は増えません。
売掛金の残高を見るときは、金額だけでなく、いつ、いくら回収できるのかまで確認することが大切です。

長期間入金されていない債権を確認する

決算時には、取引先ごとの売掛金残高と入金状況を照らし合わせます。

確認したい内容は、次のとおりです。

  • 売掛金が発生した日
  • 契約上の支払期日
  • 最後に入金された日
  • 支払いが遅れている理由
  • 今後の入金予定額

数字だけでは、入金が遅れている理由までわかりません。
必要に応じて、取引先とのやり取りや、社内の担当者が把握している情報も確認します。

売掛金だけでなく、受取手形や貸付金についても、決算日時点でいくら回収できるのかを検討します。

月ごとに入金状況を確認しておけば、決算時に長期未回収の債権がまとめて見つかる事態も避けやすくなります。

判断の根拠となる資料を残す

貸倒損失や貸倒引当金の金額は、担当者の感覚だけで決めるものではありません。
決算日時点で確認できる事実に基づいて判断します。

根拠となる資料には、次のようなものがあります。

  • 倒産手続きや債権の切捨てに関する書類
  • 取引先との交渉や督促の記録
  • 過去の入金履歴
  • 取引先の資産状況や支払能力がわかる資料

資料とともに、確認した内容や判断した経緯も残しておくと、貸倒損失を計上した理由や、貸倒引当金の見積額を説明しやすくなります。

まとめ

売掛金の回収が難しくなったときは、まず債権がどのような状態にあるのかを確認します。

回収できないことが明らかな債権は、回収不能額を売掛金などから減らし、貸倒損失として処理します。
回収不能とは断定できないものの、将来の回収に不安がある債権には、回収不能見込額を貸倒引当金として計上します。

どちらを選ぶかは、入金が遅れているという事実だけでは決まりません。
取引先の資産状況や支払能力、これまでの入金状況などを確認し、決算日時点で判断します。

また、売掛金は帳簿に記載された残高だけを見ても、会社の資金繰りへの影響まではわかりません。
決算書の数字を経営判断に使うには、売掛金がいくらあるかだけでなく、いつ、いくら回収できるのかまで把握することが重要です。

なお、会計上、貸倒損失や貸倒引当金を費用に計上しても、法人税法上、その金額がすべて損金として認められるとは限りません。
実際の処理では、取引先の状況や判断の根拠となる資料を確認したうえで、会計と税務を分けて検討する必要があります。

売掛金の回収が難しくなった場合は、入金の遅れだけで判断せず、取引先の支払能力や回収の見込みを確認することが大切です。
また、会計上の貸倒損失や貸倒引当金と、法人税法上の取扱いは分けて確認する必要があります。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。

  • 個別の売掛金について、貸倒損失や貸倒引当金の処理を確認したい場合は、メール相談
  • 複数の債権について、回収可能性や決算時の処理を整理したい場合は、個別コンサルティング
  • 売掛金の残高や入金状況を継続して確認したい場合は、税務顧問

回収が難しい売掛金の処理に迷っている方や、貸倒損失・貸倒引当金の計上額を確認したい方は、ご相談ください。


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