個別注記表には、会社が採用している会計処理の方法や、決算書の数字だけではわからない情報を記載します。
貸借対照表を見れば、決算日時点の商品や固定資産の金額はわかります。
しかし、商品をどの方法で評価したのか、固定資産をどの方法で減価償却したのかまでは表示されません。
個別注記表は、決算書に載っている数字について、計算方法や取引の背景を補う書類です。
中小会計要領では、注記について次のように定めています。
14. 注記
(1) 会社計算規則に基づき、重要な会計方針に係る事項、株主資本等変動計算書に関する事項等を注記
する。(2) 本要領に拠って計算書類を作成した場合には、その旨を記載する。
引用元:日本税理士連合会|「中小企業の会計に関する基本要領」
主な記載内容は、棚卸資産の評価方法や固定資産の減価償却方法などです。
株式会社の場合では、発行済株式数や配当に関する事項も記載します。
そのほか、受取手形の割引、リース契約、担保の設定などがあれば、取引内容に応じた注記が必要になります。
この記事では非上場の中小企業を主な対象として、個別注記表に何を書くのかを解説します。
なお、中小会計要領については、下記の関連記事をご覧ください。
- 個別注記表は、決算書の数字や会計処理を補足する書類
- 資産の評価方法や減価償却方法などを記載する
- 株式会社では、株式数や配当に関する事項も確認する
- 受取手形や担保資産などは、取引がある場合に注記する
- 会計方針などを変更した場合は、変更内容や理由を記載する
- 中小会計要領に基づいて作成した場合は、その旨を明記する
- 前期の文章を流用する前に、当期の取引や変更点を確認する
個別注記表は決算書の数字を補足する

決算書には計算方法まで表示されない
貸借対照表には、決算日時点の資産や負債が表示されます。
損益計算書からは、一定期間の売上や費用、利益を確認できます。
一方、数字を計算した方法は、貸借対照表や損益計算書を見ただけではわかりません。
貸借対照表に商品100万円と記載されていても、100万円を算出した評価方法は表示されていないでしょう。
固定資産についても同じです。
帳簿価額はわかりますが、定額法と定率法のどちらで減価償却したのかは、貸借対照表だけでは判断できません。
注記によって数字の前提を補う
個別注記表には、会社が実際に採用している会計処理の方法を記載します。
決算書を読む人は、注記を見ることで、商品や固定資産の金額を計算した前提を確認できます。
採用している会計処理が異なれば、翌期以降の利益に与える影響も変わる可能性があります。
今期の帳簿価額が同じでも、その後の費用の出方まで同じとは限りません。
個別注記表は、決算書に載った金額と、その金額を計算した会計処理をつなぐ書類です。
重要な会計方針を記載する

重要な会計方針とは、会社が決算書を作成するときに採用している、基本的な会計処理の方法です。
主な記載事項は、次のとおりです。
- 資産の評価基準と評価方法
- 固定資産の減価償却方法
- 引当金の計上基準
- その他、決算書を作成するための重要な事項
資産の評価方法を記載する
有価証券や棚卸資産がある場合は、採用している評価基準と評価方法を記載します。
棚卸資産には、次のようなものがあります。
- 商品
- 製品
- 原材料
- 仕掛品
- 貯蔵品
期末に残った棚卸資産の金額は、会社が採用している評価方法に基づいて計算します。
個別注記表には、総平均法や最終仕入原価法など、決算で実際に使った方法を記載します。
有価証券を保有している場合も、保有している有価証券の区分に応じて、評価方法を確認します。
個別注記表に評価方法を記載することで、資産の金額を、どの方法で計算したのかが確認できます。
減価償却方法を記載する
減価償却の対象となる固定資産がある場合は、採用している減価償却方法を記載します。
主な固定資産には、次のようなものがあります。
- 建物
- 機械装置
- 器具備品
- ソフトウェア
有形固定資産と無形固定資産を分け、定額法や定率法など、実際に採用している方法を示します。
固定資産台帳では定額法を使っているのに、個別注記表には定率法と書かれている状態では、決算書と注記の内容が合いません。
固定資産台帳の登録内容と、個別注記表の文章を一致させます。
引当金の計上基準を記載する
貸倒引当金や賞与引当金などを計上している場合は、引当金の計上基準を記載します。
引当金は、将来の費用や損失について、当期の負担分を見積もって計上するものです。
個別注記表には、どのような考え方で引当金を計算したのかを記載します。
貸倒引当金については、債権の区分に応じた計算方法を示します。
賞与引当金を計上している場合は、支給見込額のうち、当期の負担に属する金額を計上している旨を記載します。
その他の重要な会計処理を記載する
会社の取引内容によっては、資産の評価や減価償却以外の会計処理も記載します。
主な項目は、次のとおりです。
- リース取引の処理方法
- 繰延資産の処理方法
- 消費税等の会計処理
- 収益や費用の計上基準
消費税等の会計処理については、税抜方式と税込方式のどちらを採用しているかを記載します。
リース取引や繰延資産は、契約や残高がある場合に、採用している処理方法を確認します。
個別注記表の文章は、次の資料と照らし合わせます。
- 棚卸資産の計算資料
- 固定資産台帳
- 引当金の計算資料
- 総勘定元帳
- リース契約書
会計ソフトの初期設定ではなく、決算で実際に行った処理を基準にします。
株式や配当に関する情報を記載する

決算期末の株式数を記載する
株式会社などでは、株主資本等変動計算書に関する事項も注記します。
株主資本等変動計算書は、資本金や利益剰余金などが、期中にどのように増減したのかを表す書類です。
個別注記表には、決算期末の発行済株式数、自己株式を保有している会社では、自己株式数も確認します。
期中に増資や新株発行を行っていなければ、発行済株式数は前期と同じ場合があります。
ただし、前年の数字をそのまま記載するのではなく、株主名簿や登記事項などから、決算期末時点の株式数を確かめます。
配当を行った場合は内容を記載する
当期中に配当を行った場合などは、配当に関する事項を記載します。
主な記載内容は、次のとおりです。
- 配当金の総額
- 配当の原資
- 1株当たりの配当額
- 基準日
- 効力発生日
配当の内容は、株主総会議事録などに記載された決議内容から確認します。
前期に配当を行い、当期には行っていない場合は、前年の配当情報を残さないようにします。
当期に配当を決議した場合は、当期の決議内容へ更新します。
取引内容に応じた注記を確認する

個別注記表に記載する内容は、会社によって異なります。
受取手形の割引、リース契約、担保の設定などがある場合は、個別の取引に応じた情報も記載します。
受取手形の割引額と裏書譲渡額を記載する
中小会計要領では、貸借対照表に関する注記として、次の金額を記載することとしています。
- 受取手形割引額
- 受取手形裏書譲渡額
受取手形の割引とは、手形の満期日前に、金融機関から資金を受け取る取引です。
裏書譲渡とは、受け取った手形を、自社の支払いに充てるために取引先へ渡すことを指します。
手形が決済される前は、会社に一定の責任が残る可能性があります。
そのため、決算日時点で決済されていない手形を確認し、該当する金額を注記します。
確認資料は、次のとおりです。
- 受取手形記入帳
- 金融機関から受け取った明細
- 手形の割引や裏書譲渡に関する記録
リース取引がある場合は未経過リース料を確認する
リース契約を賃貸借取引に準じて処理している場合は、決算日後に支払うリース料を確認します。
中小会計要領では、未経過リース料について、注記することが望まれるとしています。
未経過リース料は、すでに支払ったリース料ではありません。
契約に基づき、翌期以降に支払う予定のリース料です。
次の資料から、契約期間や残りの支払額を確認します。
- リース契約書
- リース料の支払予定表
- リース契約を管理している社内資料
注記の要否や記載額は、契約内容と採用している会計処理を踏まえて検討します。
担保に入っている資産を記載する
金融機関から借入れを行う際に、会社の土地や建物を担保に入れている場合があります。
貸借対照表には土地や建物の帳簿価額が表示されます。
しかし、担保に提供している事実は、貸借対照表の金額だけではわかりません。
担保資産に関する注記では、主に次の内容を確認します。
- 担保に提供している資産
- 担保資産の帳簿価額
- 担保に対応する借入金などの債務
当期中に新たな借入れを行った場合は、担保設定の有無を確認します。
借入金を完済した場合も、担保が解除されているとは限りません。
金銭消費貸借契約書や登記事項などから、決算日時点の状況を確認します。
借入金を完済していても、土地や建物の担保設定が残っている場合があります。
反対に、借入金が残っていても、担保が解除されている場合があります。
担保資産の注記は、借入金の残高ではなく、決算日時点の担保設定をもとに判断します。
会計処理などを変更した場合は内容を記載する

会計方針を変更した場合は理由と影響を確認する
会計方針を変更した場合は、変更内容などを注記します。
会計処理の方法は、原則として、毎期継続して適用します。
方法を変更した場合は、次の内容を確認します。
- 変更した会計方針
- 変更した理由
- 決算書へ与える影響
例えば、棚卸資産の評価方法を変更した場合が考えられます。
単に新しい評価方法を記載するだけでは、前期との違いが伝わりません。
変更の理由や、決算書にどのような影響が生じたのかについても確認します。
表示方法の変更や誤りの訂正も確認する
会計方針以外にも、前期から変更された事項がないかを確認します。
主な確認事項は、次のとおりです。
- 決算書の表示方法を変更した
- 勘定科目の表示区分を変更した
- 過去の決算書の誤りを訂正した
過去の決算書に含まれていた誤りを直す処理は、会計上「誤謬の訂正」と呼ばれます。
個別注記表を作るときは、前期の決算書と当期の決算書を並べ、科目や表示区分が変わっていないかを確認します。
中小会計要領で作成した旨を記載する

中小会計要領に基づいて計算書類を作成した場合は、適用した会計ルールを明らかにするため、その旨を個別注記表に記載します。
記載例は、次のとおりです。
この計算書類は、「中小企業の会計に関する基本要領」によって作成しています。
記載する場所は、個別注記表の冒頭が一般的です。
ただし、前述の文章を加えるだけでは足りません。
棚卸資産や固定資産、引当金など、実際の会計処理についても、中小会計要領の考え方に沿っているかを確認します。
中小会計要領を適用した旨の記載と、実際の決算処理はセットで考えます。
決算では前期から変わった項目を見直す

個別注記表には、前期と同じ文章を引き続き使える部分があります。
一方で、当期中に新しい取引や変更があれば、注記も更新しなければなりません。
決算では、前期から継続している項目と、当期に変わった項目を分けて確認します。
継続している会計方針を確認する
最初に、前期から継続している会計方針を確認します。
- 棚卸資産の評価方法
- 固定資産の減価償却方法
- 引当金の計上基準
- リース取引の処理方法
- 消費税等の会計処理
前期と同じ方法を採用していても、注記の文章が正しいとは限りません。
固定資産台帳では定額法を採用しているのに、個別注記表には定率法と書かれていれば、どちらかを修正する必要があります。
「前年も同じ文章だった」という理由ではなく、当期の会計資料と一致しているかを基準に確認します。
当期に発生した取引や変更を確認する
続いて、当期中に発生した取引や変更を確認します。
- 会計方針や表示方法を変更していないか
- 新たなリース契約を締結していないか
- 受取手形を割引または裏書譲渡していないか
- 土地や建物を担保に提供していないか
- 株式を発行していないか
- 配当を決議していないか
- 過去の決算書の誤りを訂正していないか
前期から変わった項目を洗い出し、該当する注記を更新します。
個別注記表のひな型に項目があるからといって、すべてを記載するわけではありません。
会社の形態や取引内容に応じて、該当する項目を選びます。
反対に、前期に記載がなかった項目でも、当期に新しい取引が発生していれば、注記が必要になる場合があります。
前期の個別注記表は、当期の変更点を確認するための比較資料として使います。
まとめ|個別注記表から決算書の背景がわかる
個別注記表には、会社が採用している重要な会計方針や、株式数、配当に関する事項などを記載します。
会社の取引内容によっては、次の情報も確認します。
- 受取手形の割引額や裏書譲渡額
- 未経過リース料
- 担保に提供している資産
- 会計方針や表示方法の変更
- 過去の決算書の誤りの訂正
中小会計要領に基づいて計算書類を作成した場合は、その旨も記載します。
個別注記表は、ひな型の空欄を埋めるための書類ではありません。
決算書の数字を計算した方法と、数字だけでは見えない取引の状況を伝える書類です。
決算では、前期の個別注記表と当期の会計資料を照らし合わせます。
会計処理が変わっていなくても、当期に新しい借入れやリース契約、配当などがあれば、記載内容は変わります。
個別注記表まで確認すると、決算書の数字がどのような前提で作られているのかが見えてきます。
金額と計算の前提を一緒に見ることで、決算書を自社の経営判断に使える情報へ近づけられます。
個別注記表には、棚卸資産の評価方法や固定資産の減価償却方法など、決算書の数字を計算した前提を記載します。
また、株式の発行や配当、受取手形の割引、担保の設定などがあれば、当期の取引に応じて記載内容を見直す必要があります。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。
- 個別注記表の特定の項目について、記載内容を確認したい場合は、メール相談
- 会計方針や当期の取引を整理し、個別注記表に反映すべき内容をまとめたい場合は、個別コンサルティング
- 決算書と個別注記表の整合性を、決算や月次の会計処理とあわせて継続的に確認したい場合は、税務顧問
前期の個別注記表をそのまま使っている場合でも、会計処理や取引内容が変わっていれば、記載の見直しが必要です。
自社の決算書に合った注記になっているか確認したい方は、当事務所までご相談ください。
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