決算書にある「純資産」を見て、会社に残っているお金だと思ったことはないでしょうか。
しかし、純資産は、会社の預金残高や自由に使えるお金を表すものではありません。
純資産とは、貸借対照表に計上された資産の合計額から、負債の合計額を差し引いた金額です。
資産には現預金だけでなく、売掛金や棚卸資産、固定資産なども含まれます。
そのため、純資産と預金残高は通常一致しません。
中小会計要領では、純資産について次のように定めています。
13. 純資産
(1) 純資産とは、資産の部の合計額から負債の部の合計額を控除した額をいう。
(2) 純資産のうち株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金等から構成される。
引用元:日本税理士連合会|「中小企業の会計に関する基本要領」
純資産の中心となる株主資本には、大きく分けて2つの成り立ちがあります。
- 株主から払い込まれた金額を基礎とする部分
- 会社が事業を通じて積み上げた利益を基礎とする部分
勘定科目の名前だけを覚えようとすると、資本剰余金と利益剰余金の違いが曖昧になりがちです。
誰が会社へ拠出した金額なのか、会社が事業で積み上げた金額なのかという見方をすると、両者の違いが見えてきます。
今回は、中小会計要領の各論のうち、純資産について確認していきます。
なお、中小会計要領については、下記の関連記事をご覧ください。
- 純資産は、資産から負債を差し引いた金額
- 純資産と会社の預金残高は一致しない
- 資本金と資本剰余金は、株主からの払込みを基礎とする
- 利益剰余金は、会社が積み上げた利益を基礎とする
- 配当を行うと、配当の原資となった剰余金が減少する
- 決算では、純資産の合計額だけでなく増減した理由まで見る
純資産は資産から負債を差し引いた金額

純資産は、貸借対照表の資産合計から負債合計を差し引いて計算します。
純資産 = 資産の合計額 − 負債の合計額
たとえば、資産が3,000万円、負債が2,000万円であれば、純資産は1,000万円です。
資産には、会社が保有する次のようなものが含まれます。
- 現預金
- 売掛金
- 棚卸資産
- 固定資産
一方、負債には、借入金や買掛金など、将来返済または支払いが必要となる金額が計上されます。
したがって、純資産は、預金だけを取り出した数字ではありません。
会社が保有する資産全体と、返済や支払いが必要な負債との差額を表しています。
純資産は預金残高を表すものではない
純資産が1,000万円あっても、銀行口座に1,000万円が残っているとは限りません。
資産3,000万円の内訳が、次のようになっている場合を考えてみましょう。
- 現預金 500万円
- 売掛金 700万円
- 棚卸資産 300万円
- 固定資産 1,500万円
資産の合計額は3,000万円ですが、現預金は500万円です。
負債が2,000万円なら純資産は1,000万円になるものの、すぐに支払いへ回せる預金は500万円しかありません。
純資産は、会社の財務状態を表す数字です。
仕入代金や借入金の返済に使える資金を見るときは、純資産ではなく、現預金の残高と今後の入出金を確かめます。
純資産が多くても、売掛金の回収が遅れていたり、棚卸資産や固定資産に資金が偏っていたりすれば、支払いに必要な現預金が不足することもあります。
決算書では、「純資産がある=資金繰りも問題ない」と判断しないことが大切です。
株主資本は払込額と利益の蓄積からできている

純資産の中心となる株主資本は、主に次の項目から構成されます。
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 自己株式
株主資本の内訳は、次の2つに分けて考えます。
- 株主からの払込みを基礎とする部分
- 会社が積み上げた利益を基礎とする部分
資本金と資本剰余金は、主に株主から会社へ払い込まれた金額を基礎とします。
利益剰余金は、会社が事業を通じて獲得した利益の累計額から、配当などで社外へ出た金額を差し引いたものです。
資本金・資本剰余金
株主からの払込みを基礎とする
利益剰余金
会社が事業で積み上げた利益を基礎とする
たとえば、純資産が同じ1,000万円の会社でも、資本金が中心の会社と、利益剰余金を長年積み上げてきた会社では、同じ道のりを歩んできたわけではありません。
純資産の合計額だけでは、会社がどのように自己資金を形成してきたのかまでは分からないのです。
株主からの払込みは資本金と資本準備金に分かれる

会社を設立するときや、新しく株式を発行するときには、株主から会社へ金銭などが払い込まれます。
払い込まれた金額は、原則として資本金に計上します。
ただし、会社法の規定により、払込額の2分の1を超えない額は資本金に組み入れず、資本準備金として計上できます。
資本準備金は、資本剰余金に含まれる項目です。
株主から1,000万円の払込みを受けた場合、会社法で認められる範囲内で、次のように分けるケースがあります。
- 資本金 500万円
- 資本準備金 500万円
会社には1,000万円が払い込まれていますが、貸借対照表の純資産では、資本金と資本準備金に分けて表示されます。
資本剰余金には2つの区分がある
資本剰余金は、次の2つに区分されます。
- 資本準備金
- その他資本剰余金
資本準備金は、会社法上、原則として株主への分配に使えません。
その他資本剰余金は、所定の手続や制限のもとで、配当の原資になる場合があります。
資本剰余金とは、株主からの払込みなどに関係する項目であり、会社が稼いだ利益とは区別されています。
利益剰余金には会社が積み上げた利益が反映される

利益剰余金は、原則として、各期の利益の累計額から株主への配当などを差し引いた金額です。
会社が利益を計上しても、利益の全額を株主へ配当するとは限りません。
配当などで社外へ出さず、会社内部に残した利益は、利益剰余金として積み上がります。
反対に、損失を計上した場合には、利益剰余金が減少します。
利益剰余金は、会社が過去から積み重ねてきた利益や損失を読み取る手がかりです。
ただし、利益剰余金が1,000万円あるからといって、同額の現預金が残っているわけではありません。
利益をもとに設備を購入したり、在庫を仕入れたりする場合もあるためです。
利益剰余金は現金の保管場所ではなく、会社が積み上げてきた利益の履歴を表す金額です。
利益剰余金には2つの区分がある
利益剰余金は、次のように区分されます。
- 利益準備金
- その他利益剰余金
- 任意積立金
- 繰越利益剰余金
利益準備金は、会社法上、原則として株主への分配に使えない準備金です。
任意積立金は、所定の決議により、会社が目的に応じて設定します。
繰越利益剰余金には、各期の利益や損失、過去に行った配当などが反映されます。
通常、当期純利益を計上すれば増加し、損失を計上した場合や配当を行った場合には減少します。
繰越利益剰余金に関しては、数字が増えている場合は、当期の利益による増加であり、減っている場合は、損失や配当による減少であると考えられます。
配当を行うと剰余金が減少する

会社が配当を行うと、配当の原資となった剰余金が減少します。
過去に積み上げた利益を原資として配当する場合には、繰越利益剰余金などが減少します。
また、準備金の残高などによっては、配当にあわせて一定額を資本準備金または利益準備金へ積み立てなければなりません。
純資産が多くても、その全額を自由に配当できるわけではありません。
配当を検討するときは、次の点を整理します。
- 配当の原資
- 分配可能額
- 準備金の残高
- 必要な決議
- 配当後の資金繰り
配当できる金額と、現実に支払ってよい金額は別です。
会社法上は配当できても、配当後の現預金が少なくなれば、仕入代金や借入金の返済に影響します。
配当額を決めるときは、剰余金の残高だけでなく、今後必要となる運転資金も見ておきましょう。
配当は、決算書上の利益を株主へ移すだけの手続ではありません。
支払ったあとも事業を続けられるかという、資金繰りの判断を伴います。
自己株式は株主資本から差し引いて表示する

自己株式とは、会社が発行した株式を自社で取得し、期末に保有しているものです。
期末に保有する自己株式は、通常の有価証券と同じように資産へ計上しません。
純資産の部にある株主資本の末尾で、株主資本から差し引く形式で表示します。
自己株式の取得は、会社から株主へ財産が払い戻される面を持つためです。
取得には会社法上の手続や財源に関する制限があります。
実際に自己株式を取得する場合は、必要な決議や会計処理を取引前に整理しておきます。
会計上の純資産と税務上の金額は分けて考える
決算書に表示される資本金や利益剰余金と、法人税申告書で管理する「資本金等の額」「利益積立金額」は、同じ概念ではありません。
次のような取引がある場合は、決算書上の動きと法人税申告書上の動きを分けて検討します。
- 増資
- 減資
- 配当
- 自己株式の取得や処分
会計上の処理が終わっても、税務上の処理まで同じ形で完結するとは限りません。
資本に関する取引があった年度は、会計と税務の両面から内容を照合します。
決算では純資産の金額と増減理由を見る

決算書を見るときは、純資産が多いか少ないかだけで判断しないようにしましょう。
純資産が前期より増えていても、会社の利益だけが理由とは限りません。
株主から増資を受け、資本金や資本剰余金が増えた場合にも、純資産は増加します。
反対に、純資産が減った場合も、赤字だけが原因とは限りません。
配当や自己株式の取得が影響しているケースもあります。
純資産を形成した要因を見る
純資産は、合計額を見ただけでは、増減した理由まで分かりません。
次の3つのステップで、株主資本の内訳と動きを確認します。
最初に、貸借対照表の純資産の部を開き、株主資本が何によって形成されているかを見ます。
- 資本金・資本剰余金
株主からの払込みなどを基礎とする部分 - 利益剰余金
会社が事業で積み上げた利益を基礎とする部分
純資産の合計額が同じでも、資本金が中心の会社と、利益剰余金を長年積み上げてきた会社では、純資産の成り立ちが異なります。
次に、株主資本等変動計算書を見て、期首から期末までに金額が動いた項目を探します。
主な増減要因は、次のとおりです。
- 当期純利益または当期純損失
- 増資
- 配当
- 自己株式の取得
増減した項目を見つけたら、金額が増えたのか、減ったのかを確かめます。
最後に、株主資本の動きと、会社が行った取引を結びつけます。
利益剰余金が増えていれば、当期純利益が影響している可能性があります。
資本金が増えていれば、増資が行われていないかを見ます。
利益剰余金が減っている場合は、赤字だけが理由とは限りません。
配当によって減少しているケースもあります。
自己株式が増えていれば、会社が自社株式を取得した可能性を確認します。
純資産と手元資金を分けて考える
純資産が十分にあっても、売掛金の回収が遅れていたり、棚卸資産や固定資産に資金が偏っていたりすると、手元資金が不足する場合があります。
一方、借入れによって現預金が増えても、返済義務のある負債が同時に増えます。
借り入れた金額が、そのまま純資産の増加になるわけではありません。
決算では、次の順番で数字を見ていきます。
まずは、資産から負債を差し引いた金額が、前期からどのように変わったかを見ます。
株主からの払込みと、会社が積み上げた利益が、それぞれいくらあるかを分けて見ます。
資本金や利益剰余金など、金額が増減した項目を見つけます。
利益、増資、配当など、純資産が動いた原因を数字と結びつけます。
純資産とは分けて、仕入代金や税金の支払いに必要な資金があるかを見ます。
借入金の残高だけでなく、毎月の返済が今後の資金繰りに与える影響も考えます。
貸借対照表は、純資産だけを切り取らず、資産・負債・純資産のつながりで読むことが大切です。
純資産の内訳からは、会社がどのように自己資金を形成してきたかが見えてきます。
現預金と借入金をあわせて見れば、これからの支払いに耐えられるかも検討できます。
まとめ
純資産は、資産の合計額から負債の合計額を差し引いた金額です。
会社の預金残高や、自由に使えるお金を直接表しているわけではありません。
純資産の中心となる株主資本は、主に次の項目から構成されています。
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 控除項目となる自己株式
資本金と資本剰余金は、株主からの払込みを基礎とします。
利益剰余金は、会社が事業を通じて積み上げた利益を基礎とする点が大きな違いです。
決算書を読むときは、純資産が増えたか減ったかだけで終わらせず、どの項目が、どのような理由で動いたのかまでたどりましょう。
純資産の内訳は、会社が過去に積み上げてきたものを映します。
現預金や借入金の状況は、今後の支払いに備えられるかを示します。
両方を見ることで、財務状態と資金繰りを混同せずに判断できます。
増資や配当、任意積立金の設定、自己株式の取得などがある場合には、会計処理だけでは判断できません。
会社法上の手続と税務上の取扱いを分け、取引内容に応じて整理する必要があります。
純資産は、会社に残っている現預金ではありません。
決算書では、純資産の合計額だけでなく、資本金や利益剰余金の内訳、前期から金額が動いた理由まで見る必要があります。
また、増資や配当、自己株式などの取引があった場合は、決算書上の処理と法人税申告書上の取扱いを分けて検討します。
「利益は出ているのに、なぜ預金が増えていないのか」
「純資産が増えた理由を、決算書のどこで確認すればよいのか」
「配当や増資を行ったとき、会計と税務でどのような処理が必要なのか」
疑問の内容や確認したい範囲に応じて、当事務所では次のサービスをご用意しています。
- 決算書に記載された純資産の内訳や、資本金・利益剰余金の見方について、特定の疑問を確認したい場合は、メール相談
- 増資や配当などによる純資産の動きを整理し、会計処理と税務上の取扱いをまとめて検討したい場合は、個別コンサルティング
- 純資産の内訳に加えて、現預金、借入金、今後の入出金まで継続して見ていきたい場合は、税務顧問
純資産の数字だけでは、会社の財務状態や今後の資金繰りまでは分かりません。
資産・負債・純資産のつながりをたどり、現預金や借入金の動きまで見ることで、決算書の数字が自社の経営課題と結びつきます。
決算書を受け取るだけで終わらせず、数字の動きを今後の経営判断に生かしたい方は、ご相談ください。
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