ドル建てで売上を計上するとき、迷いやすいのが為替レートです。
「請求書を発行した日のレートを使うのか」
「入金された日のレートを使うのか」
「決算日までに入金されなかった場合は、どう処理するのか」
外貨建取引が頻繁に発生しない会社では、判断に迷うこともあるでしょう。
結論からいうと、外貨建ての売上は、原則として取引が発生した時点の為替相場で円換算します。
売上代金が決算日までに入金されず、外貨建ての売掛金として残っている場合は、採用している換算方法に基づいて、決算時の金額を確認します。
決算時の為替相場で換算し直して差額が生じても、売上高を変更するわけではありません。
差額は、為替差益または為替差損として処理します。
中小会計要領では、外貨建取引について、次のように定めています。
12. 外貨建取引等
(1) 外貨建取引(外国通貨建で受け払いされる取引)は、当該取引発生時の為替相場による円換算額で計
上する。(2) 外貨建金銭債権債務については、取得時の為替相場又は決算時の為替相場による円換算額で計上す
引用元:日本税理士連合会|「中小企業の会計に関する基本要領」
る。
外貨建取引を整理するときは、どのレートを使うかだけでなく、取引時、決算時、決済時のどの場面を処理しているのかを分けて考えることが大切です。
今回は、中小会計要領の各論のうち、外貨建取引等について確認していきます。
なお、中小会計要領については、下記の関連記事をご覧ください。
- 外貨建ての売上は、取引発生時の為替相場で円換算する
- 取引時の売上と売掛金は、同じ円換算額で計上する
- 決算日に残る外貨建売掛金は、採用している換算方法を確認する
- 決算時や決済時に生じた差額は、為替差損益として処理する
- 平均為替相場などを使う場合は、合理的な方法を継続する
- 会計上の換算方法と法人税の取扱いは、分けて確認する
外貨建取引は取引発生時の為替相場で円換算する

外貨建取引とは、代金の受け取りや支払いが、円以外の外国通貨で行われる取引をいいます。
たとえば、商品を1,000ドルで販売し、代金もドルで受け取る契約は、外貨建取引に該当します。
日本円で帳簿や決算書を作成するため、ドルで決められた売上を円に換算して記録します。
外貨建取引に当たるかを判断するときは、請求書に表示された通貨だけを見るのではなく、実際にどの通貨で代金を受け取る契約なのかを確認しましょう。
ドルで金額が表示されていても、支払額が日本円で確定している場合があります。
契約書や請求書から、受け取りに使う通貨まで確かめる必要があります。
売上と売掛金は同じ円換算額で計上する
ドル建てで掛け売上を行った場合、売上と売掛金は、取引発生時の為替相場によって円換算します。
1,000ドルの売上が発生し、取引時の為替相場が1ドル150円だった場合、円換算額は次のとおりです。
1,000ドル × 150円 = 150,000円
取引時には、売上高と売掛金の両方を150,000円で計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 150,000円 | 売上高 | 150,000円 |
売掛金を回収するまでに為替相場が動いても、売上高を入金日のレートに直すわけではありません。
商品を販売したことで生じた売上と、販売後の為替変動によって生じた損益は分けて把握します。
外貨建ての売上は、代金を受け取った日の為替レートではなく、原則として売上を計上すべき取引発生時の為替相場で円換算します。
一定期間の平均為替相場を使える場合がある
取引時の円換算には、取引が発生した日の為替相場を使うのが基本です。
ただし、外貨建取引が頻繁に発生する会社では、取引のたびに毎日の為替相場を確認すると、経理処理の負担が大きくなります。
中小会計要領の解説では、取引発生時の為替相場として、次のような相場を利用することも考えられています。
- 前月など、直近の一定期間における平均為替相場
- 前月末日など、直近の一定の日における為替相場
平均為替相場などを使えるとしても、取引ごとに有利なレートを選んでよいわけではありません。
会社として、あらかじめ次の内容を決めておきましょう。
- 為替相場の取得先
- 使用する為替相場の時点
- 平均を計算する場合の対象期間
- 同じ方法を適用する取引の範囲
合理的な換算方法を決め、毎期継続して使うことが重要です。
会計ソフトへ為替レートの数字だけを入力すると、後から計算の根拠が分からなくなるおそれがあります。
為替相場を取得した資料や平均相場の計算表も、あわせて保存しておきましょう。
決算日に残る外貨建売掛金は換算し直す場合がある

取引時に計上した売掛金が、決算日までに入金されていない場合があります。
外貨建ての売掛金は、将来、ドルなどの外国通貨で代金を受け取る権利です。
会計上は「外貨建金銭債権」に当たります。
中小会計要領では、外貨建金銭債権債務について、取得時または決算時の為替相場による円換算額で計上するとしています。
採用している換算方法を確認する
取引時に1ドル150円で計上した1,000ドルの売掛金が、決算日にも残っている場合を考えてみましょう。
決算時の為替相場が1ドル155円で、決算時の相場によって換算する場合、売掛金の円換算額は次のとおりです。
1,000ドル × 155円 = 155,000円
取引時に計上した売掛金は150,000円なので、決算時の円換算額との差は5,000円になります。
ただし、中小会計要領に「取得時または決算時」と書かれているからといって、決算のたびに有利な方法を自由に選べるわけではありません。
会社が採用している会計処理を確認し、同じ方法を継続して適用する必要があります。
中小会計要領は会計処理について示したものです。
法人税の計算では税務上の換算方法を別に確認し、会計上の金額と異なる場合には、申告上の調整が必要になる可能性があります。
中小会計要領に基づく会計上の処理と、法人税の計算で適用される換算方法が、常に一致するとは限りません。
法人税の計算では、外貨建債権債務の区分に加えて、選定している期末換算方法や届出の状況も確認します。
会計上の換算方法≠法人税上の換算方法の場合には、法人税の計算時に調整を行います。
使用した為替レートの根拠を残す
決算時の換算では、決算日そのものの為替相場だけでなく、決算日前後の一定期間における平均為替相場を利用することも考えられます。
平均相場を使う場合は、計算結果だけを記録するのではなく、後から同じ計算を再現できる状態にしておきましょう。
保存しておきたい資料は、次のとおりです。
- 為替相場の取得先が分かる資料
- 平均を計算した期間が分かる資料
- 使用した為替レート
- 円換算額の計算表
処理方法を変更した場合には、変更した理由や決算書への影響も整理しておく必要があります。
大切なのは、使ったレートの数字だけでなく、なぜ、そのレートを使ったのか説明できることです。
換算による差額は為替差損益として処理する

決算時の為替相場で売掛金を換算し直すと、取引時の円換算額との差が生じる場合があります。
差額は、商品を追加で販売したことで増えた売上ではありません。
販売後に為替相場が動いたことで発生した損益です。
そのため、売上高を修正するのではなく、為替差益または為替差損として処理します。
売上高は取引時の金額から変更しない
先ほどの例では、取引時に150,000円の売上高を計上しました。
決算時に売掛金の円換算額が155,000円へ増えても、売上高を155,000円に変更するわけではありません。
増加した5,000円は、為替差益として計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 5,000円 | 為替差益 | 5,000円 |
売上高は、取引時に計上した150,000円のままです。
反対に、決算時の円換算額が取引時より少なくなった場合は、減少額を為替差損として処理します。
為替差損益を本業の利益と分けて見ると、商品やサービスから生じた利益と、為替変動による影響を区別できます。
たとえば、当期の利益が前期より増えていても、増加の主な原因が為替差益であれば、本業の収益力が高まったとは限りません。
決算書を税金の計算だけに使わず、経営判断に生かすためにも、利益が生じた理由まで確認することが大切です。
売掛金を回収したときにも差額を確認する
外貨建売掛金を回収したときは、入金額の円換算額と、帳簿上の売掛金を比較します。
帳簿上の金額と実際の入金額に差があれば、差額は為替差損益です。
決算時に155,000円へ換算した1,000ドルの売掛金を、後日152,000円で回収したとします。
帳簿上の売掛金155,000円と入金額152,000円との差額3,000円は、為替差損になります。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 152,000円 | 売掛金 | 155,000円 |
| 為替差損 | 3,000円 |
決算をまたぐ売掛金では、為替差損益が生じる期間を、次のように分けて考えます。
- 取引時から決算時まで
- 決算時から回収時まで
為替予約がある場合は契約内容を確認する

外貨建ての売上代金を将来受け取る場合、入金までに為替相場が動くと、円に換算した回収額も変わります。
為替変動の影響を抑えるため、金融機関との間で為替予約を行う会社もあります。
為替予約によって決済時の円換算額が確定している場合には、外貨建取引や外貨建売掛金について、確定した円換算額で計上できることがあります。
ただし、為替予約があれば、すべて同じ方法で処理できるわけではありません。
処理を判断する前に、次の内容を確認します。
- 予約の対象となる売上や売掛金
- 予約した外貨額
- 契約上の予約レート
- 決済予定日
- 売掛金との対応関係
為替予約については、会計上の処理だけでなく、法人税の取扱いも分けて確認する必要があります。
予約契約の一部だけが売掛金に対応している場合や、予約した外貨額と実際の売掛金が一致しない場合もあります。契約書と取引資料を照合したうえで、個別に判断しましょう。
決算では外貨額と為替レートをセットで確認する

決算では、帳簿に載っている円の金額だけを見ても、外貨建売掛金が正しく処理されているか判断できません。
「何ドル残っているのか」と「どのレートで円換算したのか」をセットで確認することが重要です。
請求書や契約書から、外貨額と売上を計上した日を確かめます。
レートの取得先と、円換算額の計算過程を整理します。
すでに入金された売掛金が、帳簿に残っていないかも確認します。
会計上の処理と、法人税で選定している換算方法を分けて整理します。
換算差額を売上の修正として処理していないか、為替予約の対象を区別しているかを確かめます。
使用した為替相場の資料や計算表は、翌期以降も同じ方法で処理できるよう、決算資料と一緒に保存しておきましょう。
まとめ|外貨建取引は取引時・決算時・決済時を分けて考える
外貨建ての売上は、原則として取引発生時の為替相場で円換算します。
売上代金が決算日までに入金されず、外貨建売掛金として残っている場合は、採用している換算方法に基づいて、決算時の円換算額を確認します。
換算によって生じた差額は、売上の増減ではなく、為替差損益です。
外貨建取引を処理するときは、次の三つの時点を分けて整理しましょう。
- 売上が発生した取引時
- 売掛金が残っている決算時
- 代金を回収した決済時
外貨建取引で大切なのは、その都度有利な為替レートを探すことではありません。合理的な換算方法を継続し、使用した為替レートと計算の根拠を残すことです。
また、中小会計要領に基づく会計処理と、法人税の計算で適用される換算方法が一致しない場合もあります。
会計≠税務の場合には、法人税の計算時に調整を行います。
外貨建売掛金の処理に迷ったときは、まず、契約書や請求書に記載された外貨額と、実際の入金額を照らし合わせます。
あわせて、取引時や決算時に使った為替レートと、その計算内容も確認しましょう。
為替予約を行っている場合は、予約契約がどの売掛金に対応しているのかも整理する必要があります。
確認に必要な資料は、次のとおりです。
- 契約書
- 請求書
- 入金明細
- 使用した為替レートが分かる資料
- 円換算額の計算表
- 為替予約を行っている場合の契約書類
資料を並べるだけでなく、外貨額、使用した為替レート、円換算額が一連の取引としてつながっているかを確認することが大切です。
会計上の処理や法人税上の換算方法まで判断が必要な場合は、資料をもとに専門家へ相談しましょう。
外貨建ての売上や売掛金は、外貨額だけでなく、取引が発生した日や使用する為替レートを確認して円換算します。
また、決算日に外貨建売掛金が残っている場合には、会計上の換算方法だけでなく、法人税で選定している換算方法や届出の状況も分けて確認する必要があります。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。
- 個別の外貨建取引について、使用する為替レートや為替差損益の処理を確認したい場合は、メール相談
- 複数の外貨建売掛金について、決算時の換算や為替予約との対応を整理したい場合は、個別コンサルティング
- 外貨建取引の会計処理や税務上の取扱いを、決算のたびに継続して確認したい場合は、税務顧問
外貨建売掛金をどの為替レートで換算すればよいか迷っている方や、取引時から決済時までの為替差損益を整理したい方は、ご相談ください。
当ブログに掲載している内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する専門的な助言を行うものではありません。
内容の正確性および最新性の確保には十分留意しておりますが、法令の改正や個別の事情等により、実際の取扱いが異なる場合があります。また、理解しやすさを重視し、一部表現を簡略化または意訳している箇所がございます。
当ブログの情報に基づいて行われた判断または行動により生じたいかなる結果につきましても、当事務所および執筆者は責任を負いかねます。内容に関する具体的な判断や手続きにつきましては、必ず税務署等または税理士等の専門家へご相談いただくとともに、最新の法令・通達等をご確認ください。
なお、当ブログに掲載した情報は、予告なく変更または削除される場合がありますので、あらかじめご了承ください。
