会社を設立するときには、定款の作成や設立登記などに費用がかかります。
会社を設立した後も、事業を始めるまでに広告や市場調査などの支出が発生する場合があります。
売上がまだ少ない時期にまとまった支出があると、次のような疑問を持つ経営者も多いのではないでしょうか。
- 支出額をすぐに費用としてよいのか
- 貸借対照表に資産として残す必要があるのか
- 資産に計上した場合、何年で費用にするのか
結論からお伝えすると、創立費や開業費などは、会計上、発生時に費用処理する方法と、繰延資産として計上する方法があります。
繰延資産として計上した場合は、支出の効果が及ぶ期間にわたって償却し、各事業年度の費用へ配分します。
ただし、会計上の処理を決めれば、法人税の取扱いまで自動的に決まるわけではありません。
会計上、いつ費用にするかという判断と、法人税の計算上、いつ損金に算入できるかという判断は、分けて確認する必要があります。
中小会計要領では、繰延資産について、次のように定めています。
9. 繰延資産
(1) 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費及び新株予約権発行費は、費用処理するか、繰延資
産として資産計上する。(2) 繰延資産は、その効果の及ぶ期間にわたって償却する。
引用元:日本税理士連合会|「中小企業の会計に関する基本要領」
創立費や開業費などは、必ず繰延資産にしなければならないわけではありません。
一方、繰延資産として計上した場合は、決算のたびに償却額と残高を確認する必要があります。
今回は、中小会計要領の各論のうち、繰延資産について確認していきます。
なお、中小会計要領については、下記の関連記事をご覧ください。
- 繰延資産は、支出の効果が将来にも及ぶと期待される費用
- 創立費や開業費などは、会計上、費用処理または資産計上を選択する
- 繰延資産として計上した金額は、効果の及ぶ期間にわたって償却する
- 将来の効果が失われた場合は、まだ費用にしていない残額を見直す
- 会計上の処理と法人税法上の取扱いは分けて確認する
繰延資産は将来にも効果が及ぶ費用

繰延資産とは、支払いが完了し、対応するサービスの提供も受けているものの、支出の効果が将来にも及ぶと期待される費用です。
名前に「資産」と付いていますが、現金や売掛金のように回収できるものや、建物や機械のように、形のある財産とも異なります。
すでに受けたサービスに対する支出のうち、将来にも効果が続くと考えられるものについて、費用を複数の事業年度へ配分するために使われる項目です。
支払いとサービスの提供はすでに終わっている
繰延資産は、まだサービスを受けていない支出ではありません。
たとえば、翌期分の保険料を前払いした場合、決算日時点では翌期分のサービスをまだ受けていません。
翌期分に対応する金額は、前払費用として処理することが考えられます。
一方、会社の設立登記に関する手続きは、会社が成立した時点で完了しています。
しかし、会社を設立した効果が、設立した事業年度だけで終わるとは限りません。
設立にかかった費用を創立費として繰延資産に計上する考え方は、すでに受けたサービスに対する支出を、将来の事業年度にも配分する点にあります。
将来に効果がありそうな費用を自由に計上できるわけではない
支出の効果が将来にも続きそうだからといって、どのような費用でも繰延資産にできるわけではありません。
会計上、繰延資産として扱える項目は決まっています。
支出の名称だけで判断せず、契約書や請求書から、何のために支払った金額なのかを確認する必要があります。
繰延資産に該当するかを判断するときは、支払日だけでなく、次の2点を確認します。
- どのようなサービスの提供を受けたのか?
- 支出による効果がいつまで続くと見込まれるのか?
創立費や開業費は費用処理または資産計上を選ぶ

創立費や開業費などは、会計上、発生時に費用処理する方法と、繰延資産として貸借対照表に計上する方法があります。
どちらの方法を選ぶかによって、その事業年度の損益と貸借対照表の金額が変わります。
費用処理すると当期の損益に反映される
発生時に費用処理した場合は、支出額は当期の損益計算に反映されます。
翌期以降の貸借対照表に、繰延資産として残高は残りません。
ただし、会社の設立前後に支払った金額を、すべて創立費や開業費として処理できるわけではありません。
設立前や開業前に支払ったという事実だけでは、勘定科目を決められません。
また、会計上費用にした金額が、法人税の計算でも同じ事業年度に全額損金となるとは限りません。
法人税法上の取扱いは、支出内容に応じて別に確認します。
資産計上すると翌期以降にも費用を配分する
繰延資産として計上した場合は、発生時に全額を費用とせず、貸借対照表に残します。
その後、支出の効果が及ぶ期間にわたって償却し、各事業年度の費用へ配分します。
全額を費用処理する場合と比べると、資産計上した事業年度の費用は少なくなります。
ただし、当期の利益を大きく見せることだけを目的に、資産計上を選ぶのは適切ではありません。
支出の目的や将来に及ぶ効果を確認し、実態に合った処理を選ぶことが大切です。
- 支出の目的と内容を確認する
- 会計上の繰延資産に該当するか判断する
- 費用処理または資産計上を検討する
- 資産計上する場合は償却期間を確認する
- 法人税法上の取扱いを別に確認する
会計ソフトに登録された勘定科目だけを見ても、適切な処理かどうかは判断できません。
契約書や請求書まで戻り、どのようなサービスを受けたのかを整理しましょう。
創立費と開業費は支出時期と目的が異なる

中小会計要領で示される繰延資産のうち、中小企業にとって比較的身近なのが創立費と開業費です。
名称は似ていますが、支出した時期と目的が異なります。
| 項目 | 支出する期間 | 支出の目的 |
|---|---|---|
| 創立費 | 会社の成立まで | 法人を設立するための支出 |
| 開業費 | 会社成立後から事業開始まで | 開業準備のために特別に支出する費用 |
創立費は会社の設立にかかった費用
創立費は、会社が成立するまでに、法人を設立するために支出した費用です。
代表的なものには、次のような費用があります。
- 定款の作成や認証にかかった費用
- 設立登記に関する費用
- 会社設立のために特別に支出した費用
会社の成立前に支払った金額でも、法人の設立自体を目的としていないものは、創立費に該当しない場合があります。
開業費は事業開始までに特別に支出した費用
開業費は、会社の成立後から事業を始めるまでの間に、開業準備のために支出した費用です。
たとえば、開業を知らせるための広告費や、事業開始に向けた市場調査費などが考えられます。
注意したいのは、開業前に支払った金額が、すべて開業費になるわけではないという点です。
創立費か開業費かを区分するときは、支払日だけを見るのではなく、会社の成立日と事業を始めた時期を確認しましょう。
会計上の繰延資産にはほかの項目もある
中小会計要領では、創立費と開業費以外にも、次の項目が繰延資産として示されています。
- 開発費
- 株式交付費
- 社債発行費
- 新株予約権発行費
開発費は、新しい市場の開拓などのために支出した費用です。
通常の研究開発費と名称が似ていますが、同じものとは限りません。
なお、中小企業では頻繁に発生する項目ではありませんが、株式や社債の発行に伴う支出についても、取引内容に応じた確認が必要です。
資産計上した繰延資産は期間に応じて償却する

繰延資産として計上した金額は、支出の効果が及ぶ期間にわたって償却します。
償却とは、貸借対照表に残した金額を、各事業年度の費用へ配分する処理です。
償却期間は繰延資産の種類によって異なる
中小会計要領の解説では、次の償却期間が示されています。
| 繰延資産 | 償却期間 |
|---|---|
| 創立費 | 5年以内 |
| 開業費 | |
| 開発費 | |
| 株式交付費 | 3年位内 |
| 新株予約権発行費 | |
| 社債発行費 | 社債の償還までの期間 |
創立費や開業費を繰延資産として計上した場合、会計上は5年以内の期間で償却します。
ただし、表にある年数だけを見て、処理を機械的に決めるのは避けたいところです。
支出の効果が及ぶ期間に費用を配分するという、繰延資産の基本的な考え方も押さえておきましょう。
また、会計上の償却額と、法人税の計算上損金となる金額が、常に一致するとは限りません。
会計上の処理を決めた後に、税務上の償却も確認します。
将来の効果が失われた場合は残額を見直す
繰延資産として計上した時点では、支出による将来の効果が期待されています。
しかし、事業計画の変更などにより、見込んでいた効果が失われる場合もあります。
たとえば、新しい市場へ進出するための開発費を計上したものの、計画そのものを中止したケースです。
計画を中止し、支出による効果を期待できなくなれば、残額を資産として計上し続ける根拠も失われます。
会計上は、まだ費用にしていない残額を、将来の効果が失われた事業年度に費用処理します。
ただし、法人税の計算でも同じ金額を損金にできるかどうかは、税務上の要件を別に確認する必要があります。
会計上と法人税法上の繰延資産は範囲が異なる

繰延資産がわかりにくい理由の一つが、会計と法人税法で同じ「繰延資産」という名称が使われている点です。
法人税法には、創立費や開業費などのほかにも、法人税法固有の繰延資産があります。
法人税法では権利金などが繰延資産になる場合がある
法人税法固有の繰延資産には、支出の効果が1年以上に及ぶ費用のうち、権利金や施設負担金などが該当する場合があります。
法人税法上は繰延資産に該当しても、中小会計要領で示される会計上の繰延資産に該当するとは限りません。
会計上は、固定資産の「投資その他の資産」に、長期前払費用として計上することが考えられます。
同じ「繰延資産」という名称でも、次の判断は別々に行います。
- 貸借対照表のどの区分に表示するか?
- 法人税の計算上、いつ損金に算入するか?
勘定科目に「繰延資産」や「長期前払費用」と表示されているだけでは、処理が適切かどうかは判断できません。
契約内容や支出の目的を確認し、会計上の表示と法人税法上の償却期間を整理する必要があります。
決算では未償却残高の根拠まで確認する

繰延資産の決算整理は、当期の償却額を計算すれば終わりではありません。
貸借対照表に残っている金額について、将来にも効果が見込まれるのかを確認する必要があります。
決算では、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 契約書や請求書から支出内容を確認する
- 会計上の繰延資産に該当するか判断する
- 償却期間と当期の償却額を確認する
- 法人税法上の取扱いを別に確認する
- 残額に将来の効果が残っているか見直す
前年と同じ仕訳を繰り返しているだけでは、支出の効果が失われた繰延資産が、貸借対照表に残り続けるかもしれません。
会計ソフトの残高を確認するだけでなく、契約書や請求書などの根拠資料と照合することが大切です。
事業計画を変更している場合は、資産計上した当時の前提が現在も変わっていないかを確認しましょう。
繰延資産は、最初にどの勘定科目へ計上するかだけでなく、翌期以降に残高をどのように管理するかが重要です。
まとめ
創立費や開業費などは、会計上、発生時に費用処理する方法と、繰延資産として計上する方法があります。
繰延資産として計上した場合は、支出の効果が及ぶ期間にわたって償却します。
決算では当期の償却額だけでなく、まだ費用にしていない残額に、将来の効果が残っているかも確認しましょう。
また、法人税法固有の繰延資産は、中小会計要領で示される会計上の繰延資産と対象範囲が異なります。
会計上の表示と、法人税の計算上いつ損金に算入するかは、分けて判断する必要があります。
繰延資産の処理は、「費用にするか、資産にするか」を決めれば終わりではありません。
まずは契約書や請求書から、支出の内容と目的を整理します。
そのうえで、支出の効果が及ぶ期間、会計上の表示、法人税法上の取扱いを順番に確認し、資産計上した後も残高を継続して見直すことが大切です。
創立費や開業費などは、会計上、発生時に費用処理する方法と、繰延資産として計上する方法があります。
繰延資産として計上する場合は、支出の効果が及ぶ期間にわたって償却するとともに、決算ごとに未償却残高の根拠を確認することが大切です。
また、会計上の処理と、法人税の計算でいつ損金にできるかは、分けて確認する必要があります。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。
- 個別の支出について、創立費や開業費に該当するか、費用処理と資産計上のどちらが考えられるかを確認したい場合は、メール相談
- 複数の支出について、会計上の区分、償却期間、法人税法上の取扱いをまとめて整理したい場合は、個別コンサルティング
- 決算時の償却額や未償却残高、税務上の損金算入を継続して確認したい場合は、税務顧問
創立費や開業費の処理に迷っている方や、貸借対照表に残っている繰延資産の内容を、契約書や請求書と照らし合わせて確認したい方は、ご相談ください。
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