有価証券の内訳書では、期末残高の合計だけでなく、前期から何が変わったのかも見ておきたいところです。

会社が株式や投資信託を保有すること自体に問題があるわけではありません。
事業で得た利益を運用している会社もあれば、取引先との関係で株式を取得した会社もあります。

ところが、購入から何年もたつと、取得した経緯や保有している理由が曖昧になりがちです。

後日内容を確認しようとしても、

「証券会社からすすめめられて買った」
「預金に余裕があったので購入した」
「取引先から頼まれて、かなり前に取得した」

という記憶しか残っていないことがあります。

特に借入金がある会社では、有価証券の購入資金を説明できるようにしておきたいところです。
借入れの直後に有価証券が増えていれば、金融機関から資金の流れを聞かれる可能性があります。

取引先の株式にも注意が必要です。
取得した当時は取引量が多くても、現在は取引が減っていたり、すでに取引が終わっていたりするかもしれません。
取引がなくなっても、株式が自動的に処分されることはありません。

有価証券の内訳書は、保有銘柄を記載するだけの資料ではありません。
会社のお金を何に使ったのか、今も株式を持ち続ける理由があるのかを考える材料になります。

この記事の要点
  • 前期と当期の内訳書を比べると、購入や売却があった銘柄を見つけられる
  • 当期に購入した有価証券は、預金元帳から購入代金の出どころをたどる
  • 借入れと購入の時期が近い場合は、借入契約と実際の資金の動きを見比べる
  • 有価証券の保有額は、値下がりした場合と決算後の支払いまで含めて考える
  • 取引先の株式は、現在の取引状況を確かめ、連絡が取れるうちに今後の扱いを検討する
  • 決算前に内訳書と証券会社の資料を照合し、数量や金額の違いをなくす

有価証券の内訳書は、勘定科目内訳明細書の一つです。
勘定科目内訳明細書の全体像は、次の記事でまとめています。

前期と当期を比べると有価証券の動きが分かる

当期の内訳書だけを見ても、決算日時点の残高しか分かりません。

前期の内訳書を横に置くと、当期から新しく載った銘柄や、数量が増減した銘柄が見つかります。
数量は同じでも、金額が変わっている銘柄もあるかもしれません。

有価証券全体の合計額が前期とほぼ同じでも、保有内容まで同じとは限りません。

前期に持っていた株式を売り、その代金で別の投資信託を購入していれば、合計額には大きな変化が表れないからです。
合計だけを見て「前年と変わっていない」と判断すると、当期中の売買を見落としてしまいます。

数量と金額の変化から当期の取引を探す

前期と当期を比べるときは、銘柄ごとの数量と金額を見ます。

数量が増えている銘柄は、当期中に購入した可能性があります。
上場株式については、証券会社の取引報告書を開けば、購入日と購入代金を確かめられます。

数量が減っていれば、売却の記録を探します。
期末までに全部売却した銘柄は、当期末の残高には表れません。
前期の内訳書や当期中の取引記録を見なければ、売却した事実を見落とすことがあります。

数量が変わっていないのに金額だけが動いている場合は、決算時の評価が影響しているかもしれません。

前期と比較する理由は、前年との差額を計算するためではなく、当期中に購入や売却があった銘柄を見つけるためです。

購入による増加と時価評価を分けて考える

売買目的有価証券は、決算日の時価で評価します。

売買目的有価証券とは、価格の変動によって利益を得る目的で保有する有価証券です。
株価が上がれば、買い増していなくても決算書上の金額は増えます。
反対に株価が下がれば、保有数量が同じでも金額は減ります。

内訳書の金額が増えていたら、数量も一緒に見ます。

数量と金額の両方が増えていれば、新たに購入した可能性があります。
数量が変わっていなければ、時価評価による変化が考えられます。

国税庁の記載要領でも、売買目的有価証券については、時価評価前の帳簿価額と時価評価後の金額を分けて記載する取扱いが示されています。

金額が増えたからといって、投資額を増やしたことが原因とは限りません。

証券会社の取引報告書を見ると、購入による増加なのか、決算時の評価による増加なのかを確認できます。

当期に購入した有価証券は支払資金までたどる

当期に購入した銘柄が見つかったら、購入代金をどの口座から支払ったのかを見ていきます。

会社に借入金があっても、有価証券を保有してはいけないわけではありません。
以前から蓄積していた預金や、事業で得た利益を運用している会社もあります。

一方、金融機関から借りた資金には、運転資金や設備資金などの使い道が定められています。

借入れから間もない時期に有価証券を購入していれば、融資担当者から資金の流れを聞かれるかもしれません。

購入日から預金元帳をたどる

証券会社の取引報告書には、有価証券の購入日と購入代金が記載されています。

購入日が分かったら、預金元帳から証券口座への送金を探します。
同じ口座へ借入金が入金されていれば、借入日と購入日の間隔も分かります。

もしも、借入金が入金された数日後に、同じ口座から証券口座へ多額の資金を移していれば、金融機関から使い道を尋ねられる可能性があります。

ただし、日付が近いというだけで、借入金を有価証券の購入へ回したとは断定できません。
会社の口座には、借入金のほかに売上代金なども入るためです。

証券会社の取引報告書、預金元帳、借入契約書を日付順に見比べると、購入前後のお金の動きが見えてきます。

「余裕資金だった」を預金残高だけで決めない

「預金に余裕があったので、有価証券を購入した」

経営者からよく聞く説明ですが、口座に預金が残っていたからといって、その全額を自由に使えたとは限りません。

決算後には、法人税や消費税の納付があります。
借入金の返済が続く会社もあれば、賞与や設備代金の支払いを予定している会社もあるでしょう。

購入時点では預金が十分に見えても、近く支払う金額を差し引けば、実際に余裕のある資金は思ったほど残らない場合があります。

有価証券を購入した後に資金繰りが苦しくなり、追加融資を受けているなら、投資へ回した金額が会社の状況に合っていたのかも振り返る必要があります。

有価証券と借入金が同じ時期に増えていても、それだけで資金使途に問題があるとは判断できません。

大切なのは、購入した目的と購入代金の出どころを、帳簿や契約書に沿って説明できることです。
借入契約に記載された使い道と実際のお金の動きにずれがある場合は、説明の言葉だけを整えず、契約内容と入出金を整理したうえで金融機関への相談を検討します。

有価証券が値下がりしても事業資金は足りるか

有価証券の残高が1,000万円あったとしても、金額だけでは多いか少ないかを判断できません。

十分な現預金がある会社と、毎月の支払いに余裕がない会社では、同じ1,000万円でも重みが違います。

考えたいのは、有価証券の価格が下がっても、本業に必要なお金を確保できるかという点です。

上場株式は比較的売却しやすい資産ですが、資金が必要になったときに希望する価格で売れるとは限りません。
相場が下がっている時期であれば、損失を抱えたまま現金化することもあります。

仕入代金や給与を支払うために、値下がりした有価証券を売却しなければならない状態なら、投資へ回した金額が会社の資金力に対して大きい可能性があります。

決算後に出ていくお金と比べる

会社に残しておきたい現預金は、決算後の支払いから考えると分かりやすくなります。

主な支払いには、次のようなものがあります。

  • 法人税や消費税
  • 借入金の返済
  • 賞与
  • 設備の購入代金
  • 大口の仕入代金

支払日と予定額が分かれば、近いうちに会社から出ていく金額も見えてきます。

有価証券を多く保有していても、予定している支払いに必要な現預金が残っていれば、直ちに問題になるわけではありません。

反対に、有価証券の残高がそれほど大きくなくても、納税や返済に使う予定の資金まで投資へ回していれば、資金繰りに影響します。

有価証券の保有額は、決算日時点の残高だけで判断せず、値下がりした場合の影響と、決算後の支払いを合わせて考えます。

取引が減った相手先の株式が残っていないか

有価証券の内訳書には、資産運用のために購入した株式だけでなく、取引先との関係から取得した株式も載っています。

取得当時は主要な取引先だったとしても、年月がたてば関係は変わります。
取引量が少なくなったり、取引自体が終わったりしても、株式は会社に残ります。

毎年、前期の内訳書を基に当期分を作っていると、現在はほとんど連絡を取っていない相手先の株式が、そのまま載り続けることもあります。

取得当時ではなく現在の取引を見る

取引先の株式が載っていたら、現在の取引状況と照らし合わせます。

以前は取引額が大きく、株式を保有する意味があったとしても、現在は取引がほとんどないかもしれません。
すでに取引が終わり、担当者同士の連絡も途絶えかけている場合があります。

取引が減ったからといって、直ちに売却すべきとは限りませんが、相手先との関係や今後の事業方針も踏まえて判断する必要があります。

なお、取引も連絡もなくなってから非上場株式を処分しようとしても、簡単には進まないことがあります。

非上場株式には譲渡制限が設けられている場合があります。
市場で自由に売却できず、発行会社へ譲渡の手続や買い取りの可否を相談するケースも考えられます。

そのため、取引が減ってきた段階で株式の保有を見直し、相手先と連絡が取れるうちに、売却や買い取りが可能か相談しておくことをおすすめします。

実際に売却するかどうかは、取引関係だけで決めません。
譲渡条件や株式の評価額、売却した場合の税務への影響まで確認したうえで判断します。

金融機関へ現在の保有理由を説明する

取引先の株式の金額が大きい場合、金融機関から保有理由を聞かれることがあります。

「昔から持っている株式です」という説明だけでは、現在も会社の資金を株式として持っている理由が伝わりません。

取引が続いている相手先なら、現在の取引内容年間取引額をまとめておくと、本業との関係を説明しやすくなります。

取引が減っている相手先については、今後も保有を続けるのか、処分を検討しているのかを整理しておきたいところです。

現在の取引内容、年間取引額、株式を保有している理由を一枚にまとめることで、融資担当者への説明に使えます。

なお、取引先の株式を持っているだけで、必ず関係会社になるわけではありません。
保有先が関係会社に該当する場合は、国税庁の記載要領に従い、有価証券の内訳書の摘要へその旨を記載します。

決算前に内訳書と証券会社の資料を合わせる

有価証券の動きや購入資金が分かったら、内訳書と証券会社の残高資料を見比べます。

決算書の合計額が合っていても、銘柄ごとの数量や金額が違っている場合があります。

前期の内訳書を基に当期分を作成すると、売却した銘柄が残ったり、新しく購入した銘柄が漏れたりすることもあります。

決算日時点の残高資料と見比べたいのは、次の項目です。

  • 銘柄名
  • 保有数量
  • 帳簿価額
  • 決算日の時価
  • 会計上の区分

銘柄ごとの内容が合ったら、内訳書の合計額と決算書の有価証券残高も照合します。

差額が見つかった場合は、内訳書への転記を間違えたのか、売買や時価評価の仕訳に原因があるのかを調べます。

内訳書の数字だけを直すと、総勘定元帳や決算書との不一致が残るかもしれません。
差額が生じた理由までたどることが大切です。

売る予定だけで会計区分を変えない

経営者が考えている保有目的と、会計上の区分は必ずしも一致しません。

「近いうちに売る予定だから、売買目的有価証券になる」と、売却予定だけで判断することはできません。

売買目的有価証券に当たるかどうかは、取得時の目的や社内での管理状況も踏まえて判断します。
区分が違えば、決算時の評価方法や税務上の取扱いに影響する場合があります。

長く保有している銘柄や、実際の保有目的と会計区分が合っていないように感じる銘柄があっても、経営者の判断だけで変更せず、決算前に税理士へ確認することをおすすめします。

まとめ

有価証券の内訳書は、前期分と並べると、当期中に購入した銘柄や売却した銘柄が見えてきます。

当期に数量が増えた銘柄は、証券会社の取引報告書から購入日と購入代金を調べます。
預金元帳までたどると、代金を支払った口座や、購入前後の預金残高も分かります。

数量が変わっていないのに金額だけが動いている場合は、時価評価による変化が考えられます。
購入による増加と混同しないよう、取引記録と合わせて見ておきたいところです。

借入金の入金時期と購入時期が近くても、それだけで資金使途に問題があるとは判断できません。
ただし、借入契約の内容と実際のお金の動きを、帳簿に沿って説明できる状態にしておくことは大切です。

取引先の株式は、取得当時の事情だけでなく、現在の取引関係から見直します。
取引がなくなった後も株式だけが残っている場合は、相手先との連絡が途絶える前に、売却や買い取りが可能か相談しておくほうが現実的です。

最後に、内訳書と証券会社の残高資料を照合します。
銘柄、数量、金額に違いがあれば、内訳書だけでなく総勘定元帳や決算書への影響まで確かめます。

前期から増えた銘柄や、取引がなくなった相手先の株式が残っていないでしょうか。

2期分の内訳書を並べると、有価証券の残高が変わった理由と、会社が現在も保有する理由の両方が見えてきます。有価証券の内訳書を前年の数字から書き換えて終わるのではなく、会社のお金の使い方を振り返る資料として活用してください。

有価証券の内訳書を前期と比べると、当期に購入した銘柄や、数量は同じでも金額が変わった銘柄が見つかることがあります。
当期に有価証券が増えている場合は、証券会社の取引報告書や預金元帳から、購入代金をどの資金で支払ったのか確かめることが大切です。
借入れと購入の時期が近い場合は、借入契約に記載された資金使途と、実際のお金の動きも見比べます。
取引が減った相手先の株式が残っている場合は、相手先と連絡が取れるうちに、今後も保有するのか、売却や買い取りを相談するのかを整理しておきたいところです。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。

  • メール相談
    有価証券の評価方法や会計区分、内訳書の記載内容など、確認したい点が決まっている方
  • 個別コンサルティング
    前期と当期の内訳書を比べ、購入資金と借入金との関係、取引先株式の保有理由、金融機関への説明内容までまとめて整理したい方
  • 税務顧問
    有価証券の残高や評価方法を毎期確認し、借入金とのバランスや資金繰り、取引先株式の扱いまで継続的に見直したい方

有価証券を購入した資金の流れが分からない場合や、借入金との関係をどのように説明すればよいか迷っている場合は、ご相談ください。


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