決算書に載っている「商品」や「原材料」の金額を見て、前年より増えた理由を説明できるでしょうか。
「在庫が増えたことはわかっても、どの商品が増えたのかまでは見ていない。」そんな経営者も多いと思います。
決算書に載っているのは、棚卸資産の合計額です。
商品ごとの数量や単価まではわかりません。
在庫の中身を見たいときに役立つのが、棚卸資産の内訳書です。
前期と当期の内訳書を並べてみると、急に増えた商品や、前年からほとんど動いていない商品が目に入ります。
棚卸資産の内訳書で見たいのは、在庫が多いか少ないかではありません。
何が増減し、その動きが会社の方針と合っているかです。
販路を広げるために仕入れを増やしたなら、販売を伸ばしたい商品が増えているはずです。
原材料の値上がり前にまとめて仕入れた場合は、対象となる原材料の数量が増えます。
新商品への切替えに合わせて旧商品を値下げ販売したなら、旧商品の残数にその結果が表れます。
内訳書の数字と会社の動きが合っていなければ、理由を調べるきっかけになります。
決算書を閉じる前に、前期と当期の棚卸資産の内訳書を並べてみてください。
金額の大きな品目や、前年から目立って動いた品目を見るだけでも、気になる在庫が見つかるかもしれません。
- 実地棚卸で数えた数量が、内訳書に反映されているかを見る
- 前期と当期を並べ、増減額の大きな品目を探す
- 在庫金額の変化を、数量と評価単価に分ける
- 在庫の動きが、会社の仕入れや販売の方針と合っているかを見る
- 在庫の実態を決算書と内訳書へ反映し、会計と税務の違いは申告で調整する
棚卸資産の内訳書は、勘定科目内訳明細書の一つです。
勘定科目内訳明細書の全体像は、次の記事でまとめています。
棚卸資産の金額が変わると利益も変わる

棚卸資産を正確に計上する必要があるのは、貸借対照表の在庫金額を合わせるためだけではありません。
期末の棚卸資産が変わると、決算書の利益も変わります。
商品の売上原価は、基本的に次の式で計算します。
期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高=売上原価
期首棚卸高が100万円、当期仕入高が1,000万円、期末棚卸高が200万円なら、売上原価は900万円です。
期末棚卸高が300万円になると、売上原価は800万円になります。
ほかの条件が同じなら、期末棚卸高が100万円増えた分だけ、利益も100万円増える計算です。
期末在庫を実際より多く計上すれば、利益も実際より多く見えます。
反対に、在庫が少なすぎれば、利益も少なくなります。
決算を黒字に見せるために在庫を増やす。
税金を減らすために在庫を少なくする。
そのような決め方はできません。
在庫金額を決める前に、決算日時点で何が、いくつ残っているのかを押さえる必要があります。
内訳書の数量と単価を見てみる
棚卸資産の内訳書には、商品や原材料などについて、主に次の内容を記載します。
- 科目
- 品目
- 数量
- 単価
- 期末現在高
- 摘要
決算書に「商品300万円」と載っていても、合計額だけでは中身が見えません。
同じ300万円でも、販売予定の商品が増えたのか、前年から売れずに残っている商品が多いのかによって、経営者が受け取る意味は変わります。
内訳書を開くと、どの商品が何個残り、どの単価で金額を計算したのかがわかります。
金額の大きな品目を見つけたら、数量が実地棚卸の結果と合っているかを見てください。
単価についても、どの資料をもとに計算したのかを確かめます。
数量と単価のどちらかがわからなければ、内訳書に載っている金額にも確認の余地があります。
棚卸表と内訳書の数字を比べる

帳簿に記録されている数量と、決算日に倉庫へ置かれている数量が、必ず同じとは限りません。
入庫の入力が遅れていることもあれば、すでに廃棄した商品が帳簿に残っている場合もあります。
決算時には現物を数えて棚卸表を作り、在庫管理表や帳簿の記録と照合します。
差が出たときは、理由を調べたうえで期末の数量を決めます。
実地棚卸は、商品を数えて終わる作業ではありません。
現物と帳簿が合っているかを確かめる機会でもあります。
金額の大きな品目から見てみる
品目数が多ければ、内訳書を上から下まで細かく見るだけでも大変です。
そんなときは、金額の大きな商品や原材料が目に入るはずです。
決算書への影響も大きいため、金額の大きな品目から棚卸表と見比べてみると、確認しやすくなります。
たとえば、棚卸表では商品Aが500個なのに、内訳書では550個になっていないでしょうか。
棚卸表に載っている原材料Bが、内訳書では見当たらないこともあるかもしれません。
違いが見つかったときは、すぐに片方の数字へ合わせるのではなく、差が出た理由を探します。
原因として考えられるのは、次のようなものです。
- 入庫や出庫の記録漏れ
- 返品の処理漏れ
- 廃棄した商品の記録漏れ
- 別の倉庫にある在庫の確認漏れ
- 品番の取り違え
- 個数とケース数の間違い
会社の外へ預けている在庫がある場合は、棚卸しから漏れていないかも見ておきたいところです。
反対に、取引先から預かっている商品を、自社の在庫として数えていないかも注意が必要です。
数字だけを直してしまうと、翌期も同じ原因で差が出る可能性があります。
なぜ合わなかったのかまでわかれば、在庫管理のどこで数字がずれたのかも見えてきます。
前期と当期の内訳書を並べる

当期の内訳書だけを眺めても、在庫の変化には気づきにくいものです。
前期の内訳書を隣に置くと、急に増えた商品や、前年からほとんど動いていない品目が目に入ります。
特に気になるのは、次のような品目です。
- 金額が大きく増減した品目
- 当期から新しく載った品目
- 前年と数量がほとんど同じ品目
- 前期にはあったものの、当期にはない品目
気になる品目が見つかったら、数量と評価単価を前年と比べます。
経営者自身が理由を思い出せなければ、仕入れや在庫を担当する人に聞いてみましょう。
「たぶん売れ残りだと思う」で終わらせず、仕入れや販売の記録までたどると、在庫金額が動いた背景が見えてきます。
数量が変わった理由を見る
商品Aの在庫金額が、前年の200万円から300万円へ増えていたとします。
金額の増加に気づいたら、まず数量を見ます。
販路を広げるために商品Aを多く仕入れたのであれば、数量が増えた理由は明確です。
繁忙期に備えた仕入れなら、いつごろ販売する予定なのかも確認しておきたいところです。
原材料の値上がり前にまとめて仕入れた場合は、どのくらいの期間で使う予定なのかも見ます。
半年で使い切る量なのか、数年分を抱えているのかによって、在庫の意味が変わるからです。
一方、経営者が増やした覚えのない商品や、販売予定のない商品が増えていたら、そのままにはできません。
想定したほど売れなかった可能性があります。
発注量が多すぎたのかもしれません。
在庫が増えたという事実だけでは、良いとも悪いとも判断できません。
増えた理由と今後の予定までわかって、初めて数字の意味が見えてきます。
評価単価が変わった理由を見る
数量が前年と同じでも、評価単価が上がれば在庫金額は増えます。
ただし、内訳書の評価単価は、直近の請求書に書かれた仕入単価と同じとは限りません。
棚卸資産の単価は、会社が採用している評価方法に基づいて計算します。
直近の請求書だけを見て、内訳書の単価が間違っていると判断することはできません。
前年と評価単価が違っていたら、棚卸資産の評価計算資料を見ます。
仕入価格や製造原価の変化が反映されたのか。
前年と同じ評価方法で計算されているのか。
数字を作った資料まで戻れば、違いの理由を確かめられます。
在庫金額が増えたときに、数量が増えたのか、評価単価が上がったのかを分けるだけでも、数字の見え方は変わります。
前年から動いていない在庫を探す

金額が大きく動いた品目だけでなく、前年から数量がほとんど変わっていない品目にも目を向けます。
販売を終了した商品が、前年と同じ数量で残っていないでしょうか。
製造方法を変えた後も、使わなくなった原材料が内訳書に載り続けているかもしれません。
何年も動いていない在庫が見つかったら、今後も販売または使用する予定があるのかを担当者へ聞いてみます。
現物の状態も見ておきたいところです。
破損していないか。品質が落ちていないか。
新商品へ切り替わった後も、通常の価格で販売できるのか。
話を聞いてみると、「いつか売れると思って残している」「処分を決めないまま数年たっている」といった事情が出てくることがあります。
だからといって、長く残っている在庫の金額を、すぐにゼロにするわけではありません。
決算日時点で在庫にどれだけの価値があるのかを、現物の状態や今後の販売見込みから考える必要があります。
会計上の評価と税務上の取扱いは分けて考える
在庫の価値が下がっているとき、税務上、評価損を損金にできるかが気になるかもしれません。
ただし、税務上損金になるかどうかだけで、決算書に載せる棚卸資産の金額を決める必要はありません。
適用する会計基準等に従い、会計上、評価損を計上すべき場合は、決算日時点の価値を決算書へ反映します。
棚卸資産の内訳書にも、決算書の金額に対応する内訳を記載します。
会計上計上した評価損が、税務上は損金算入できない場合には、法人税申告書で加算調整する方法があります。
整理すると、考え方は次のとおりです。
- 決算書には、会計上適切と判断した金額を計上する
- 棚卸資産の内訳書には、決算書に対応する金額を記載する
- 税務上損金にならない評価損は、法人税申告書で調整する
税務上損金にならないからといって、価値の下がった在庫を実態より高い金額のまま決算書へ載せる必要はありません。
先にやることは、決算日時点の数量と価値を正しく把握することです。
税務上の評価損は、単に売れ行きが悪い、仕入れすぎた、市場価格が下がったといった理由だけで、必ず損金になるわけではありません。
会計上の評価と税務上の取扱いが、同じ結論になるとは限らないため、判断に迷う在庫があれば、決算を確定する前に税理士へ相談した方がよいでしょう。
在庫の動きと会社の方針を比べる

内訳書を前期と比べると、前年から何が動いたのかが見えてきます。
次に、数字の動きと会社が進めてきた方針を比べて、会社が考えていた動きと、内訳書に表れた結果が合っているかを見ます。
販路を広げた商品は増えているか
新しい取引先への販売を始めるため、商品Aを多く仕入れたとします。
内訳書でも商品Aが増えていれば、会社の方針と在庫の動きがつながります。
ところが、増えているのが販売を伸ばす予定のない商品Bだったら、理由を確認する必要があります。
商品Bにも新しい販売予定があるのかもしれません。
また、単に売れ残っている可能性もあります。
内訳書だけで、販路拡大が成功したかどうかまで判断することはできません。
ここで見るのは、販売を増やす予定の商品と、実際に増えた在庫が一致しているかです。
値上がり前に仕入れた原材料は増えているか
原材料の値上がりに備え、価格改定前にまとめて仕入れる会社もあります。
まとめて仕入れたのであれば、対象となる原材料の数量が内訳書でも増えているでしょう。
数量だけでなく、使用予定も見ておきたいところです。
予定していた期間で使い切れる量なのか、想定以上に残っているのかによって、次の判断も変わります。
仕入代金をまとめて支払えば、手元の預金も減ります。
在庫は増えたものの、資金繰りが苦しくなっていないかも確認が必要です。
仕入れの判断そのものを、内訳書だけで評価するわけではありません。
値上がり前に仕入れるという判断が、在庫数量と手元資金にどう表れているかを把握します。
旧商品を販売した後の残数を見る
新商品の入荷前に、旧商品を値下げ販売することもあります。
販売を進めたのであれば、その結果が旧商品の残数へ表れているかを見ます。
予定より多く残っている場合は、販売後の出庫記録が更新されていないのかもしれません。
また、思ったほど売れずに在庫が残っているケースも考えられます。
廃棄した商品がある場合は、値下げ販売とは分けて整理します。
廃棄した事実を確認できる資料や、会計・税務上の処理が必要になるためです。
旧商品が多く残っていたら、担当者へ理由を聞いてみましょう。
内訳書の数字から、当初の計画と実際の販売状況の違いが見えてきます。
数字がつながらない在庫は決算前に見直す

気になる品目が見つかったら、棚卸表から棚卸資産の内訳書まで、数字がつながっているかをたどります。
見比べる資料は、次のとおりです。
- 棚卸表
- 在庫管理表
- 総勘定元帳
- 決算書
- 棚卸資産の内訳書
資料によって商品の分け方が違っていても、最終的な残高は一致するはずです。
金額が合わなければ、どの資料から差が出ているのかを探します。
増減額の大きな品目は、コメントをしておくと、翌期の確認にも役立ちます。
- 新規取引先への販売に備え、商品Aを追加で仕入れた。
- 原材料Bの値上がり前に、通常より多く仕入れた。
- 新商品への切替えに伴い、旧商品Cを値下げ販売した。
- 仕入価格の上昇が評価単価へ反映され、在庫金額が増えた。
評価損を計上した場合は、決算書と内訳書の金額が対応しているかも見てください。
内訳書の摘要欄には、評価換えを行った場合の評価増減額を記載します。
会計上計上した評価損が税務上損金にならない場合は、法人税申告書での調整も必要です。
会計上の評価額と税務上の金額に差が生じるため、翌期以降もわかるように資料を残しておきます。
「数量や評価単価の根拠がわからない」「何年も動いていない在庫がある」「決算書と内訳書の金額が合わない」
気になる点が一つでも見つかったら、決算を確定する前に税理士へ相談しておきたいところです。
まとめ|前期と当期の内訳書を並べてみる

棚卸資産の内訳書は、税務署へ提出して終わる資料ではありません。
前期と当期を並べると、会社が進めてきた仕入れや販売の方針が、在庫の数字へどのように表れたのかが見えてきます。
内訳書を開いたら、前年から金額が大きく動いた品目を探してみてください。
気になる品目が見つかったら、数量が変わったのか、評価単価が変わったのかを見ます。
その理由を自分の言葉で説明できるでしょうか。
前年から数量がほとんど動いていない品目も、見過ごしたくありません。
販売や使用の予定がわからなければ、担当者へ聞いてみましょう。
現物の状態を見ると、数字だけではわからなかった事情に気づくこともあります。
棚卸資産を確認するときは、税務上損金になるかどうかを先に考えるのではなく、決算日時点の数量と価値を正しく把握することが重要です。
棚卸資産の内訳書を前期と比べると、数量や評価単価の変化、長く動いていない在庫が見つかることがあります。
気になる在庫があれば、決算日時点の数量と価値を確かめ、決算書と勘定科目内訳明細書へ正しく反映することが大切です。
会計上の評価損と税務上の取扱いが異なる場合は、法人税申告書での調整も必要になります。
当事務所では、確認したい範囲に応じて、次のサービスをご用意しています。
- メール相談
棚卸資産の数量や評価単価、評価損の取扱いについて、確認したい点が決まっている方 - 個別コンサルティング
前期と当期の内訳書を比べ、在庫の増減理由や経営方針とのつながり、決算書への反映をまとめて整理したい方 - 税務顧問
棚卸資産の残高や評価方法を毎期確認し、評価損の税務調整や資金繰りへの影響まで継続的に見直したい方
棚卸資産の数量や評価単価の根拠がわからない場合や、長く動いていない在庫の評価でお困りの場合は、ご相談ください。
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