仕事を始める前に、前金や着手金を受け取ることがあります。たとえば、コンサルティング、イラスト制作、動画制作、講座申込などでは、サービス提供前や納品前に報酬の一部を先に受け取るケースがあります。

このようなとき、会計ソフトへ入力しようとして、次のように迷うことがあります。

  • 入金があったから売上にしてよいのか
  • 前受金として処理するべきなのか
  • 仕事が終わったときに、もう一度仕訳が必要なのか

結論からいうと、サービス提供前や納品前に受け取った前金・着手金は、受け取った時点ですぐに売上として扱わない場合があります。

この場合、いったん「前受金」として管理し、サービス提供や納品が完了したタイミングで売上に振り替える考え方があります。

前金や着手金は、仕事に取りかかる前に資金を確保できるため、個人事業主や小規模事業者にとって資金繰りを整えるうえで役立つ請求方法です。

大切なのは、資金繰りのために前金・着手金を活用しながら、経理上は「入金」と「売上」を分けて管理することです。

この記事では、前金・着手金を受け取ったときの仕訳、売上にする時期、前受金の消込方法、預金の動きだけで売上管理をしないための考え方を解説します。

前金・着手金を受け取った時点では売上にならない場合がある

前金・着手金とは、サービス提供前に受け取るお金

前金とは、商品やサービスを提供する前に、代金の全部または一部を先に受け取るお金をいいます。着手金は、仕事に取りかかる段階で受け取る報酬の一部として使われることが多い言葉です。

たとえば、次のようなケースで発生します。

  • コンサルティング開始前に報酬の一部を受け取る
  • イラストや動画制作の開始時に前金を受け取る
  • 講座やサービスの申込時に事前入金を受ける
  • 士業や専門サービスで業務開始前に着手金を受け取る

名称は、前金、着手金、予約金、申込金、内金などさまざまです。ただし、経理処理では名称だけで判断せず、そのお金が何に対する入金なのか、サービス提供や納品が終わっているのかを確認することが大切です。

たとえば「着手金」という名称でも、契約上どの時点で報酬が確定するのかによって処理が変わることがあります。名称だけで決めるのではなく、契約内容や実際のサービス提供状況を見ながら判断します。

サービス提供前・納品前の入金は、前受金として管理する

前金や着手金を受け取ったときは、入金時点でサービス提供や納品が完了しているかを確認します。

まだサービスを提供していない、商品を引き渡していない、制作物を納品していない段階であれば、その入金は売上ではなく、いったん前受金として管理することがあります。

前受金とは、将来サービスを提供する前提で先に受け取ったお金です。

この時点では預金口座にお金が入っていますが、会計上はまだ売上として認識する段階ではない場合があります。つまり、預金が増えたことと、売上として計上できることは分けて考える必要があります。

銀行口座と会計ソフトを連携している場合でも、通帳データだけでは、その入金が前金なのか、売上として認識できる入金なのかを判断しきれないことがあります。

そのため、発行した請求書、契約内容、納品日、サービス提供状況などをあわせて確認し、入金と売上を対応させて管理することが大切です。

売上にする時期は、サービス提供や納品が完了したタイミングで考える

前金や着手金をいつ売上にするかは、入金日だけで判断するのではなく、サービス提供や納品が完了したタイミングを基準に考えます。

制作物を納品する仕事であれば、納品した日や検収した日が売上計上の判断材料になります。サービス提供であれば、契約内容に応じて、サービスを提供した日や業務が完了した日を確認します。

継続契約の場合には、契約期間やサービス提供期間に応じて、月ごとに売上を認識する考え方が必要になることもあります。

大切なのは、「お金が入った日」だけで売上を判断しないことです。

なお、売上計上の時期や消費税の取扱いは、事業内容、契約内容、請求方法、検収条件、継続取引かどうかによって判断が変わることがあります。この記事では基本的な考え方を説明していますが、実際の処理は各取引内容に合わせて確認することが大切です。

前金・着手金の仕訳例と前受金の消込方法

前金・着手金を受け取ったときの仕訳

サービス提供前や納品前に前金・着手金を受け取った場合、入金時には次のような仕訳を行うことがあります。

借方金額貸方
普通預金100,000円前受金100,000円

この仕訳は、預金口座に10万円が入金された一方で、まだ売上としては確定していないため、前受金として管理するという意味です。

会計ソフトでは、銀行口座の入金データを取り込むと、自動で売上として推測されることがあります。内容を確認せずに登録すると、前金や着手金まで売上として処理してしまう可能性があるので注意が必要です。

入金データを確認するときは、次の点を確認するとよいでしょう。

  • 何の案件に対する入金か
  • サービス提供前の入金か
  • すでに納品や業務完了が済んでいるか
  • 発行請求書の内容と一致しているか

サービス提供・納品が完了したときの仕訳

その後、サービス提供や納品が完了し、売上として認識できるタイミングになったら、前受金を売上高へ振り替えます。

借方金額貸方金額
前受金100,000円売上高100,000円

これを、前受金の消込といいます。

前受金として受け取ったお金は、入金時点で処理して終わりではありません。サービス提供や納品が完了した段階で、売上へ振り替えるところまで管理する必要があります。

この処理を忘れると、仕事が完了しているにもかかわらず、会計上で売上として計上されない状態になります。また、前受金勘定に本来残らないはずの金額が残り続けることがあります。

前受金の管理で大切なのは、いつ売上に振り替えるのか、その案件が完了したかどうかを追いかけることです。

一部を前金で受け取り、残額を後日受け取る場合の考え方

報酬の一部を着手金として受け取り、残額を納品後や業務完了後に受け取るケースもあります。

たとえば、報酬総額30万円の制作案件で、契約時に着手金10万円を受け取り、納品後に残額20万円を請求する場合を考えます。

契約時に10万円を受け取った段階では、サービス提供前であれば、次のように前受金として処理します。

借方金額金額
普通預金100,000円前受金100,000円

納品が完了し、報酬総額30万円を売上として認識するタイミングになったら、すでに受け取っている10万円を売上に振り替え、残り20万円は売掛金として管理します。

借方金額貸方金額
前受金100,000円売上高100,000円
売掛金200,000円売上高200,000円

考え方は次のとおりです。

  • 先に受け取ったお金は、完了前であれば前受金として管理する
  • 仕事が完了したら、報酬総額を売上として認識する
  • まだ受け取っていない残額は、売掛金として管理する

なお、実際の仕訳は、請求書の発行タイミング、契約内容、消費税の処理、会計ソフトの入力方法によって異なることがあります。 大切なのは、仕訳の形だけでなく、前受金、売上、売掛金がそれぞれ何を表しているのかを理解することです。

預金の動きだけで売上管理をすると、前受金の処理を間違えやすい

入金だけを見て売上にすると、売上計上の時期がずれる

前金や着手金の処理で起こりやすいのが、預金口座への入金だけを見て売上として処理してしまうケースです。

しかし、入金日と売上計上日は一致しないことがあります。サービス提供前に受け取った前金を入金日に売上として処理すると、本来より早い時期に売上が計上されます。

たとえば、7月に着手金を受け取り、8月に納品した案件について、7月の入金時に売上として処理すると、7月の売上が多く見え、8月の売上が少なく見えることがあります。

預金の動きは資金繰りを確認するためには重要です。一方で、売上管理をするためには、請求書やサービスの提供状況もあわせて確認する必要があります。

前受金の消込を忘れると、売上の過小計上につながる

反対に、入金時に前受金として処理したものの、サービス提供後に売上へ振り替える処理を忘れてしまうケースもあります。

この場合、仕事が完了しているにもかかわらず売上が計上されず、売上が実際より少なく見えることがあります。また、前受金勘定に、本来であれば売上へ振り替えられているはずの金額が残り続けます。

前受金の残高が残っていること自体がすぐに悪いわけではありません。まだサービス提供前の案件であれば、前受金として残ります。

ただし、すでに納品済み、サービス提供済み、業務完了済みの案件について前受金が残っている場合には、売上への振替漏れがないか確認した方がよいでしょう。

前受金は、入金時に入力して終わりではなく、その後に売上へ振り替えるところまで管理することが大切です。

売上は発行請求書をもとに管理する

前金・着手金の処理で特に大切なのは、預金の動きだけで売上を判断しないことです。

売上を正確に管理するためには、発行した請求書を起点にして、次のような点を確認します。

  • どの案件の請求か
  • 請求金額はいくらか
  • 前金や着手金はいくら受け取っているか
  • サービス提供や納品は完了しているか
  • 売上計上済みか
  • 入金済みか、未入金か
  • 前受金の消込は済んでいるか

発行請求書を見ずに預金の動きだけで売上を管理していると、前金や着手金の入金時に売上計上してしまうことがあります。また、前受金として処理したあとに消込を忘れ、売上が過小に計上されることもあります。

ミスを減らすためには、発行請求書を起点にしながら、契約内容、納品状況、サービス提供状況とあわせて、売上と入金を分けて管理する習慣が大切です。

売上は事業の成長を確認する数字であり、入金は資金繰りを確認する数字です。どちらも大切ですが、役割は異なります。

取引の流れに基づいて売上を認識することで、いつ仕事を提供し、いつ売上が発生し、いつ入金されたのかを整理しやすくなります。

まとめ|前金・着手金は資金繰りに役立つ一方で、売上とは分けて管理する

前金や着手金を受け取ることは、仕事に取りかかる前に資金を確保し、資金繰りを整えるうえで役立つ請求方法です。

一方で、サービス提供前や納品前に受け取ったお金は、入金時点ですぐに売上になるとは限りません。いったん前受金として管理し、サービス提供や納品が完了したタイミングで売上に振り替える考え方があります。

前金・着手金の処理で大切なのは、次の3点です。

  • 預金に入金されたことと、売上として計上できることを分けて考える
  • 前受金は、入金時の処理だけでなく、売上への振替まで管理する
  • 売上は預金の動きだけでなく、発行請求書を起点に確認する

自分で経理を進める場合、会計ソフトへの入力方法に目が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、どの勘定科目を使うかだけではなく、なぜその処理をするのか、いつ売上として認識するのかを整理することです。

前受金・着手金の処理方針に迷った場合

前金や着手金の処理は、入金時の仕訳だけでなく、売上に振り替えるタイミング、請求書との対応関係、消費税区分などもあわせて整理する必要があります。

坂本幸一郎税理士事務所では、メール相談や個別コンサルティングなどで、前受金や着手金の処理方針、売上計上のタイミング、勘定科目、消費税区分、税務上の考え方を整理する支援を行っています。

自分で経理を進めている中で、前金・着手金・前受金の処理に迷う場合は、現在の請求方法や会計ソフトの入力状況を確認しながら、無理なく整理していきましょう。


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